Luhn アルゴリズムは、Luhn の公式、「モジュラス 10」、または「mod 10」アルゴリズムとも呼ばれ、識別番号の検証に使用される単純なチェックサム方式です。IBM のエンジニア、Hans Peter Luhn によって開発されたこのアルゴリズムは、クレジットカード番号、国際移動体装置識別 (IMEI) 番号、およびその他の数値データを検証するために使用できます。企業は、特に決済データなどの機密性の高い情報を扱う場合に、データ入力プロセスの精度と信頼性を高めるために、Luhn アルゴリズムをよく利用します。
以下では、Luhn アルゴリズムとは何か、なぜ重要なのか、利用者の決済のセキュリティを強化するための利用方法など、企業が Luhn アルゴリズムについて知っておくべきことを紹介します。
この記事の内容
- Luhn アルゴリズムの公式
- Luhn アルゴリズムが重要である理由
- Luhn アルゴリズムが検証する数値の種類
- さまざまな業界での Luhn アルゴリズムの活用
- Luhn アルゴリズムの限界
- Stripe Radar にできること
Luhn アルゴリズムの公式
Luhn アルゴリズムには通常の数学的な公式はありません。代わりに、次のような一連の手順を実行します。
手順 1: 右端の桁を起点として、右から 2 番目の桁の数字を 2 倍にし、それ以降の偶数桁の数字もすべて 2 倍にします。2 倍にした結果 2 桁になった場合は、それぞれの桁を別々の数字として加算し、1 桁の数字を算出します。
例: 6 × 2 = 12 で、1 + 2 = 3 となります手順 2: 2 倍にしなかったすべての桁の数字と 2 倍にして算出した数字をすべて加算して合計値を求めます。
手順 3: 合計値が 10 で割り切れるかどうかを確認します。合計値の末尾が 0 になった場合、Luhn アルゴリズムでは有効な番号であると判断されます。
Luhn アルゴリズムの公式を使用して、「79927398713」という番号を検証してみましょう。
右端から偶数桁の数字をすべて 2 倍にします。
1 x 2 = 2
8 x 2 = 16 (1 + 6 = 7)
3 × 2 = 6
2 × 2 = 4
9 x 2 = 18 (1 + 8 = 9)
2 倍にしなかった桁も含めてすべての桁の総和を計算します。
7 + 9 + 9 + 4 + 7 + 6 + 9 + 7 + 7 + 2 + 3 = 70
結果は 70 となり、70 は 10 の倍数であるため、Luhn アルゴリズムで「79927398713」は有効な番号と判断されます。
上記の一連の手順が、Luhn アルゴリズムによる番号の検証・生成に用いられる「公式」 (計算法) となります。

Luhn アルゴリズムが重要である理由
Luhn アルゴリズムは、複数の業界、特に金融、決済、行政サービス全体のデータ検証と不正利用防止を一変させました。
ここでは、Luhn アルゴリズムが非常に重要である理由をいくつかご紹介します。
データ精度の向上: Luhn アルゴリズムは、1 桁の数字の間違いや 2 桁の数字の順序間違いといった一般的なタイプの入力ミスを検出できる簡単な検証方法であり、金融や銀行などの業界で特に重要です。
導入のしやすさ: Luhn アルゴリズムはシンプルで理解しやすく、計算リソースをほとんど消費せずにさまざまなプログラミング言語で実装できるため、幅広い用途に利用できます。
リアルタイム機能: Luhn アルゴリズムはリアルタイムでの適用が可能であり、入力と同時に数値データの正確さを検証できます。即時のデータ検証が求められるシステムでは、Luhn アルゴリズムによるチェックが重要となっています。
不正利用防止: 巧妙な不正利用の試みを確実に検出できるわけではありませんが、Luhn アルゴリズムは防御の最前線となります。Luhn アルゴリズムは取引や操作を進める前に無効な数字を発見するのに役立つため、不正利用を思いとどまらせたり、不正利用やセキュリティ侵害を引き起こす可能性がある誤りの発生を抑制したりできます。
コスト効率: Luhn アルゴリズムによってプロセスの早い段階でミスを検出できるため、財務上の損失、利用者の不満、訂正にかかる管理費など、誤ったデータ処理に起因するコストの発生を防止できます。
世界的な影響力: Luhn アルゴリズムは、その有効性とシンプルさから、主要なクレジットカード会社、政府機関、および金融機関による ID 番号の検証に世界中で広く採用されています。
Luhn アルゴリズムは、誤りを検出し、不正利用を防止し、正確な取引を確保することで、クレジットカードや機密データを検証する効果的なツールです。その導入のしやすさとリアルタイムの検証機能により、決済処理および金融システムにおける重要なセキュリティ対策となっています。
Luhn アルゴリズムが検証する数値の種類
数字を手入力するシステムでは、Luhn アルゴリズムをリアルタイム検証ツールとして使用して、入力ミスを即時検出して強調表示し、データ品質と業務効率を向上させることができます。これにより、後続処理に進む前に番号が構造的に有効であることが保証されます。
一般的に検証可能な番号の種類を以下にまとめます。
クレジットカード番号: Luhn アルゴリズムの最も一般的な用途は、クレジットカード番号の検証です。クレジットカード取引が処理される前に、カード番号が Luhn アルゴリズムと照合され、有効な並びであることが確認されます。この手順は、偶発的な入力ミスや桁数の不足を検出するのに役立ち、ほぼすべてのクレジットカードに Luhn によるチェックが組み込まれています。
識別番号: Luhn アルゴリズムは、社会保障番号、携帯電話の IMEI 番号、国民識別番号などの識別番号を検証するために使用されています。この検証では、番号が正しく入力され、処理されているかどうかがチェックされます。
金融 ID: 多くの銀行や金融機関では、Luhn アルゴリズムを使用して、口座番号や金融番号などの金融 ID を検証してから、送金などの取引を行っています。
バーコード: EAN コードや UPC コードなどの一部のバーコード形式には、Luhn アルゴリズムを使用して計算されたチェックディジットが組み込まれています。スキャナーは、Luhn アルゴリズムを使用して、バーコードの読み取りが適切に行われたことを確認します。これにより、在庫管理、小売店での購入、物流業務の精度を高めることができます。
さまざまな業界における Luhn アルゴリズムの活用
Luhn アルゴリズムは、重要な数値データの検証、偶発的な入力ミスの防止、不正利用対策の強化を目的として、さまざまな業界で使用されています。
ここでは、実際に Luhn アルゴリズムがどのように使用されているかを簡単にご紹介します。
オンラインショッピング: オンラインで購入する際に、決済システムは Luhn アルゴリズムを使用して、取引の処理前に、有効なクレジットカード番号が入力されていることを検証します。これにより、入力ミスや数字の誤りによる支払い拒否を減らすことができます。
バンキングシステム: 銀行やクレジットカード会社は、Luhn アルゴリズムを使用して口座番号と金融番号を検証し、売上が正しい口座に確実に送金されるようにします。これにより、電子送金 (EFT) または ACH 支払いが処理される前に、有効な金融口座に売上が送金されます。
携帯電話: 国際移動体装置識別 (IMEI) 番号は、モバイルデバイスを一意に識別し、Luhn アルゴリズムを使用して他の数字から計算されたチェックディジットを含めます。これは、IMEI 番号の完全性を検証するのに役立ち、中古の電話を購入する際の不正利用防止とデバイスの識別に役立ちます。
政府文書: 一部の国では、社会保障番号や国民識別番号などの識別番号に、Luhn アルゴリズムを用いて計算したチェックディジットを追加しています。これにより、政府機関は、納税記録、社会保障、および文書発行におけるデータの入力や処理の際にそれらの識別番号が正しいことを検証できます。
公益事業: 公益事業の多くは Luhn アルゴリズムを用いて利用者のアカウント番号を検証しています。これにより、請求や支払い情報が正しいアカウントに関連付けられるため、請求ミスやカスタマーサービスの問題が削減されます。
発券システム: 航空会社、鉄道、その他の交通機関は、Luhn アルゴリズムを使用して予約参照番号やチケット番号を検証しており、データが正しく入力されていることを確認し、チケットの不正利用のリスクを軽減します。
Luhn アルゴリズムの限界
Luhn アルゴリズムはミスの検出や番号の検証に役立つ強力なツールですが、一定の限界が存在します。不正利用の検出やデータ検証に関する場合、Luhn アルゴリズムは通常、多数ある検証および計算方法の 1 つでしかなく、安全性が重視される用途では、Luhn アルゴリズムだけに頼ることは望ましくありません。
Luhn アルゴリズムの主な限界を次に示します。
複雑なエラー検出: Luhn アルゴリズムは、1 桁の入力ミスや隣接する桁の順番間違い (67 が 76 になるなど) といったよくあるミスの検出を意図しており、隣接していない桁の入れ替わり (197 が 971 になるなど) や、番号内に複数の誤った桁があるといった複雑なミスは検出されません。
不正利用の検出: Luhn アルゴリズムは番号が正しい可能性があることを検証できますが、番号が正規のアカウントや ID に対応するものかどうかを判断したり、有効な番号を入手した不正利用者による、故意の不正行為から保護したりすることはできません。
数値以外のデータ: Luhn アルゴリズムは数値データのみに有効で、文字、記号、特殊文字、英数字の ID などを含むデータの検証には使用できません。
データの整合性: Luhn アルゴリズムでは、数値の妥当性のみがチェックされ、データの整合性は検証されません。データが意図的に変更されているかどうかを検出したり、データのどの部分が正しくないかを特定したりすることはできません。
予測可能性: Luhn アルゴリズムはよく知られた標準的な検証方法であり、アルゴリズムの知識があれば誰でも Luhn による検証を通過する数値を生成できます。高水準のセキュリティが求められる状況では、この予測可能性がデメリットとなる場合があります。
サイバーセキュリティのための用途が限られている: Luhn による検証はデータを暗号化または秘匿しないため、ハッキング、フィッシング、データ侵害などの悪意のある攻撃に対するセキュリティは提供されません。暗号化、多要素認証 (MFA)、AI による不正利用の検出など、他のセキュリティ対策も併用する必要があります。
上記のような限界はあるものの、今もなお Luhn アルゴリズムは金融サービスなど、さまざまな用途で番号の事前チェックに広く使用されています。追加のセキュリティおよび検証プロセスと組み合わせることで、データの精度を高め、番号の偶発的な入力ミスを防ぐのに役立ちます。
Stripe Radar の特長
Stripe Radar は、不正利用を検知し、防止するため、Stripe のグローバルネットワークから入手したデータを活用して AI モデルをトレーニングします。不正利用の最新トレンドに基づいてこれらのモデルを常時アップデートし、不正利用の進化に先んじてお客様のビジネスを保護します。
Stripe はこのほか、Radar for Teams も提供しています。お客様は、自社のビジネスに特有の不正シナリオに対応するカスタムルールを追加設定できるだけでなく、不正利用に関する有益な情報にもアクセスできます。
Radar は、以下の場面でお客様をサポートします。
- 不正利用による損失の防止: Stripe は年間 1 兆ドル以上の決済額を処理しています。この規模でも、Radar は不正利用を正確に検知・防止し、お客様のコスト削減に貢献します。
- 売上の向上: Radar の AI モデルは、実際の不審請求データ、顧客情報、閲覧データなどに基づいて教育されています。そのため Radar は、リスクの高い取引を特定し、誤検知を減らし、売上を増加させることに特化しています。
- 時間の節約: Radar は Stripe に組み込まれており、設定にコードは一切必要ありません。また、単一のプラットフォームで不正利用の動きを監視したり、ルールを作成したりすることができるため、業務効率も向上します。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。