電子請求書は、デジタルインボイスとも呼ばれ、従来の紙の請求書に代わるデジタル版の請求書として登場しました。
紙の請求書と異なり、電子請求書は電子的に作成、送信、受信、処理されます。ほとんどの場合、XML などの構造化された形式で作成されるため、会計ソフトで容易に自動処理できます。
このような請求処理は、今や世界中で行われています。世界の電子請求書市場は、2023 年に 135 億ドル規模に達し、2032 年までに 610 億ドルに到達することが見込まれています。以下では、電子請求の仕組み、手動請求との違い、考慮すべき課題とメリット、ビジネスに適した電子請求ソリューションの選び方について解説します。
本記事の内容
- 電子請求の仕組み
- 電子請求と手動請求の相違点
- 手動請求の課題
- 電子請求のメリット
- 電子請求の課題
- 電子請求システムの構築および導入方法
- 電子請求のセキュリティとコンプライアンスに関する考慮事項
- 適切な電子請求ソリューションの選び方
電子請求の仕組み
電子請求は、従来の紙ベースの請求を、より迅速で自動化されたデジタルデジタルプロセスへと置き換えます。この項目では、電子請求の一般的な仕組みについて解説します。
請求書の作成:売り手は、会計ソフトまたは電子請求プラットフォームを利用して、電子的に請求書を作成します。請求書には、買い手と売り手の情報、請求書番号、請求日、商品の説明、数量、価格、税金、合計支払額など、必要なすべての情報が記載されます。さまざまなシステムとの互換性を保つために、請求書は構造化された形式 (通常は XML) で作成されます。
請求書の送信:売り手は、電子請求書を買い手に電子的に送信します。このプロセスは、次のチャネルを通じて行われます。
- 直接送信:安全な接続を使用して、売り手のシステムから買い手のシステムに直接送信されます。
- 電子メール:電子メールの添付ファイルとして買い手に送信されます。
- 電子請求ネットワークまたはプラットフォーム:買い手がアクセス、ダウンロードできるネットワークまたはプラットフォームに請求書をアップロードできます。
- Peppol ネットワーク:グローバルネットワークを通じて企業と政府の間で安全に交換されます。
- 直接送信:安全な接続を使用して、売り手のシステムから買い手のシステムに直接送信されます。
請求書の受領:買い手は、希望するチャネルを通じて電子請求書を受け取ります。請求書が構造化された形式であれば、買い手の会計システムに自動的にインポートできるため、手動でデータを入力する必要もなくなります。請求書が電子メールの添付ファイルまたは PDF として送信される場合は、手動処理が必要になることがあります。
請求書の処理と承認:買い手の会計システムは、請求書データを検証し、エラーをチェックし、発注書やその他の関連ドキュメントと照合します。買い手の内部プロセスによっては、請求書の承認ワークフローを経る場合があります。承認されると、請求書の支払いがスケジュールされます。
支払い:買い手は、合意された支払い条件に従って支払いを開始します。支払いは、銀行振込、クレジットカード、オンライン決済プラットフォームなどの方法で電子的に行うことができます。
アーカイブ:買い手と売り手は、記録保持と法令遵守の目的で電子請求書を電子的に保存します。
電子請求と手動請求の相違点
電子請求と手動請求は、請求処理と決済処理の面で異なる 2 つの請求方式であり、形式、送付方法、処理方法、および全体的な効率に違いがあります。違いの内訳を以下の項目にわたって解説していきます。
方法
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手動請求
|
電子請求
|
---|---|---|
形式 | 物理的な文書 | デジタル文書 (XML、PDF など) |
作成 | ワープロや請求書作成ソフトで手書きまたは文字入力 | 会計ソフトまたは電子請求書プラットフォームで電子的に作成 |
配送 | 郵便による配達 | 電子送信 |
処理 | 会計システムに手動でデータ入力 | 自動でデータをインポート |
保管 | キャビネットに書類を保管 | データベースに電子データとして保管 |
費用 | 印刷、郵送、紙、手作業により増加 | 自動化とペーパーレス化で削減 |
スピード | 手作業や郵送など、処理と支払いに時間が必要 | 自動化によって処理と支払いが迅速化 |
精度 | 手動によるデータ入力でエラーが起きやすい | データ処理の自動化で精度が向上 |
環境への影響 | 紙の使用や配送車両の燃料などにより、環境への影響が大きい | 紙も物理的な配送も不要で、環境への影響が少ない |
手動請求の課題
手動請求は、エラーが発生しやすく、時間や労力も要するため、支払いの遅延やサプライヤーの不満など、経済的損失につながる可能性があります。ここでは、電子請求で対処しようとしている手動請求の主な問題について説明します。
時間と費用:紙の請求書の作成、送付、処理は、時間がかかり、面倒なプロセスと見なされることも珍しくありません。さらに、このプロセスには、印刷、封書、郵送料金の処理、そして郵便物の到着を待つことも含まれます。受取側では、誰かが手作業で郵便物を開封し、請求書を分類した上で会計システムにデータを入力する必要があるため、ボトルネックや遅延が発生することがよくあります。
エラー:手作業によるデータ入力は、しばしばエラーを引き起こします。請求書番号、数量、価格などの単純な入力ミスは、過払い、過少支払い、さらにはサプライヤーとの紛争といった重大な悪影響をもたらす可能性があります。これらのエラーは、修正にコストがかかるほか、上記のようにビジネス関係を損なう原因になり得ます。
可視性の欠如:手動請求では、請求書のステータスをリアルタイムで追跡することは困難です。郵送中、受け取り済み、承認待ちなど、具体的なステータスを把握できない場合は、キャッシュフローを効果的に管理することが困難になり、支払い期限の遅れにつながることもあります。
コスト:紙、インク、郵便、手動処理に必要な労力はすべて、コストを押し上げる要因となります。請求処理に費やす時間は、他の付加価値活動にも有効に活用できる時間であることを念頭に置きましょう。
環境への負荷:紙の請求書への依存は、森林伐採の促進要因ともなり、大量の廃棄物を発生させ、環境に配慮している企業にとっての懸念となっています。
電子請求のメリット
ここでは、電子請求に関する利点をいくつかご紹介します。
処理と支払いの迅速化:電子請求書は電子的に送信されるため、物理的な郵送に伴う遅延の問題が解消されます。これにより、請求書処理がスピードアップし、支払いサイクルが短縮され、キャッシュフローの改善につながります。
コスト削減:電子請求により、紙の使用、印刷、郵送料、データの手入力が不要になります。これらのカットは、特に大量の請求書を処理する企業にとって大幅なコスト削減になります。また、自動化により手作業の必要性が減り、スタッフは他の作業に時間を費やせるようになります。
エラーの減少:データの手入力はエラーが発生しやすく、不一致や不審請求の申請につながる原因にもなります。電子請求によってデータの検証とインポートを自動化することで、正確で一貫性のある請求書データを作成し、コストのかかるミスの発生を抑制することが可能です。
可視性の向上:電子請求プラットフォームには、リアルタイムの追跡・監視機能があります。企業は、作成から支払いまで、各請求書のステータスを簡単に確認できるようになるため、プロセス全体の可視性と制御が向上します。この透明性の確保は、ボトルネックを特定し、問題を迅速に解決し、キャッシュフロー管理を最適化するのに役立ちます。
廃棄物の削減:電子請求への移行で紙の必要性をなくすことで、環境への負荷を軽減し、持続可能性の取り組みに貢献します。
サプライヤーとの関係改善:迅速な支払いと透明性の高いプロセスにより、サプライヤーとより良い関係を築くことが可能になります。電子請求は、信頼と信用の構築に役立ち、取引の円滑化、優遇価格や新製品への早期アクセスなどの潜在的なメリットにもつながります。
拡張性:電子請求ソリューションは、手軽に事業の成長に合わせて拡張することができます。請求書の量が増えても、これらのシステムは追加の手作業を必要とせずやるべき処理を行います。
法令遵守とセキュリティ:電子請求プラットフォームは、税法と国際基準に準拠し、機密性の高い財務データを保護するための強力なセキュリティ対策を組み込んでいます。
電子請求の課題
他のビジネスソリューションと同様に、電子請求にも固有の課題があります。ここでは、電子請求に移行する際に注意すべき点をご紹介します。
初期投資:電子請求システムの導入には、ソフトウェア、ハードウェア、トレーニングへの初期投資が必要です。中小企業にとっては、このコストが非常に高く感じるかもしれません。
既存システムとの連携:電子請求書を既存の会計システムや企業資源計画 (ERP) システムに統合する場合、その複雑さで時間がかかるほか、技術的な専門知識や外部コンサルタントを必要とします。
技術的な問題:技術的な不具合、ソフトウェアの更新、接続の問題により、電子請求が中断され、遅延やエラーが発生することがあります。
変化への抵抗:手動プロセスに慣れている従業員は、電子請求への移行に抵抗を覚えるかもしれません。導入プロセスを円滑に進めるには、変更管理の取り組みとトレーニングを必要とする場合があります。
サプライヤーのオンボーディング:サプライヤーに電子請求の導入を説得する場合、特にリソースや技術的能力を持たない小規模なサプライヤーにとってはそれが困難な可能性があります。
サイバーセキュリティ上の脅威:電子請求書には機密性の高い財務情報が含まれているため、サイバー攻撃の標的でもあります。そのため、強力なセキュリティ対策で保護しなければなりません。
データプライバシー規制: GDPR などのデータプライバシー規制への適合には時間がかかる場合があり、また個人情報の慎重な取り扱いが求められます。
形式の違い:電子請求書は複数の形式で作成できるため、異なるシステム間で互換性の問題が生じる可能性があります。
各種の規制:電子請求書の規制は国や地域によって異なるため、複数の場所で事業を展開している企業にとって法令順守を徹底するのは困難です。
直筆署名の欠如:通常、電子請求書は直筆での署名が不可能なため、不審請求の申請が発生した場合に真正性と有効性に関する懸念が生じる可能性があります。
技術的な問題:電子請求システムの技術的な不具合やエラーによって、請求書の正確性や送信に関する不審請求が申請される可能性も否定できません。
電子請求システムの構築および導入方法
以下の手順に従うことで、会社に電子請求システムを導入することができます。
要件の分析
支払いサイクルの短縮、精度の向上、規制要件の徹底など、電子請求システムによって何を成し遂げたいかを明確に定めます。既存の請求プロセスを見直してボトルネックや非効率部分を洗い出し、既存の ERP システムや特定のコンプライアンスツールとの連携機能など、電子請求システムに必要な機能を特定します。
システムの選択
先の分析結果に基づいて、必要な機能のリストを作成します。リアルタイム処理、国際標準 (Peppol、UBL など) との互換性、会計ソフトとの容易な連携などの面を優先するようにしましょう。
次に、さまざまな電子請求システムプロバイダーを調査・比較します。レビューやケーススタディも参考にし、デモ版をリクエストしてください。ベンダーが業界経験豊富であり、信頼できるカスタマーサポートを提供しているかチェックしておきましょう。
技術的な設定
IT チームと協力して、電子請求ソフトを既存のシステムとどのように連携させるかを計画します。この計画には、システム間のデータフローを促進するための API 実装、データマッピング、カスタム開発が含まれることがあります。
カスタマイズ
プロセスに合わせてソフトウェアの設定を調整します。ニーズに応じて、請求書テンプレート、税金計算、通貨処理、言語オプションなどの設定を調整してください。
コンプライアンスチェック
法律の専門家に相談して、電子請求の運用が地域および国際的な税法・基準に沿っていることを確認してください。これにより、法規制の変更にも対応できる将来性のあるシステムとなり、すべての請求書が法的に有効であることが保証されます。
セキュリティ
暗号化、安全なアクセス制御、定期的なセキュリティ監査などのセキュリティ対策を実装して、機密データを保護します。
導入
特定のベンダーまたは顧客グループとともにパイロットフェーズから開始します。このフェーズでフィードバックを収集し、調整を行います。ロールアウトを徐々に拡大して請求書などにも適用し、体系的に利害関係者を巻き込みます。
トレーニング
財務、営業、IT チーム向けの詳細なトレーニングセッションを実施します。マニュアル、FAQ、トレーニングビデオなどのリソースを提供するととで、新しいシステムの学習を支援できます。
サポート
ベンダーと一緒にサポートフレームワークを設定して、問題に迅速に対処します。これには、本番稼働後の最初の数カ月間の専門サポートも含まれます。
立ち上げ
連携が正しく機能し、すべてのユーザーグループがトレーニングを受けていることを確認した後、システムを完全に本番環境へと移行します。
モニタリング
電子請求システム内のツールを使用して、そのパフォーマンスを積極的に監視しつつ、ユーザーからのフィードバックを収集します。処理時間、エラー率、ユーザー満足度の改善に努めるようにしましょう。
電子請求のセキュリティとコンプライアンスに関する考慮事項
電子請求の利用にあたっては、データを保護し、セキュリティとコンプライアンスに細心の注意を払って法律に従う必要があります。この項目では、推奨されるセキュリティ対策とコンプライアンス要件について詳しく解説します。
推奨されるセキュリティ対策
データの暗号化:暗号化は、送信中および保存中の請求書データの保護に役立ちます。TLS (Transport Layer Security) や AES (Advanced Encryption Standard) などの強力な暗号化プロトコルにより、機密情報を不正アクセスから保護します。
アクセス制御:アクセス制御により、許可された担当者のみが請求書を表示、変更、または処理できます。ロールベースのアクセス制御 (RBAC) は、職務に応じたユーザーアクセス制限を課すことで、内部不正やデータ侵害を防止します。
認証と承認:多要素認証 (MFA) などの強力な認証メカニズムを用いた請求システムへのアクセスで、セキュリティをさらに強化します。
監査証跡:監査ログには、誰がいつ請求書にアクセスまたは変更したかについての記録を詳細に残す必要があります。この記録は、不一致の追跡のほか、インシデントの調査にも役立ち、規制の遵守に貢献します。
データインテグリティ対策:デジタル署名やチェックサムなどの手段により、データが元の形式から変更されていないことが検証され、データの整合性が保たれます。
ネットワークセキュリティ:請求書を送信するネットワークは、ファイアウォール、侵入検知システム (IDS)、侵入防止システム (IPS) などの手段で攻撃や不正アクセスから保護する必要があります。
コンプライアンス要件
法規制の遵守:電子請求プロセスには、現地の規制と国際的な規制の両方が適用される場合があります。たとえば、EU の指令 2014/55/EU は、公共調達に電子請求書の使用を義務付けています。
税務コンプライアンス:多くの法域では、税務申告に使用する電子請求書に特定の基準を設けています。電子請求システムは、現地の VAT 規制または GST 規制に準拠した請求書を生成し、該当する場合はデジタル納税申告システムと連携できる能力を有していなければなりません。
基準とフォーマット:電子請求は、二国間の異なる請求システムの相互運用性を確保する EDIFACT などの国際標準に準拠することが求められます。これらの基準に従うことで、請求書が法的に認められ、他国のシステムでも処理できるようになります。
アーカイブポリシー:規制機関の多くは、監査目的により、請求書を特定の期間保持することを企業に要求しています。その要求の一環として、データ保持法に準拠した信頼性の高いストレージソリューションの使用を推奨しています。
プライバシー法:会社は、EU の GDPR やカリフォルニア州の CCPA などのデータプライバシー法に従わなければなりません。これらの規制は、個人データの取り扱いと保護の方法を義務付けています。
国外データ転送:複数の国で事業を行っている場合、国外データ転送の適用法に則って業務を遂行することが求められます。たとえば、EU から他の地域に転送されるデータは、標準契約条項 (SCC) などの GDPR のデータ転送規則に準拠しているものでなければなりません。
適切な電子請求ソリューションの選び方
以下の手順を参考にして、会社に適した電子請求ソリューションを選ましょう。
ニーズを見極める
取引ニーズ:請求書の量、ビジネスプロセス、取引の複雑さを鑑み、電子請求ソリューションに何が必要かを判断します。
既存システム:電子請求ソリューションと連携すべきシステム (ERP、会計ソフト、CRM など) を特定します。
ユーザーベース:海外のベンダーや顧客など、ユーザーベースの多様性が深化することを考慮し、多言語および多通貨のサポートを導入します。
必要な機能を評価する
自動化:自動化機能 (注文書から自動入力される請求書フィールド、請求書と支払いの自動照合など) を持つソリューションを候補に選びましょう。
セキュリティ:データ暗号化、安全アクセス制御、データ保護法準拠など、ソリューションのセキュリティ対策を評価します。
ユーザー体験:カスタマーサポートと分かりやすいドキュメントを備え、最小限の操作学習で済むインターフェースを選びましょう。
モバイル / クラウドアクセス:請求タスクをリモートで処理するために、モバイルアプリケーションまたはクラウドアクセスの必要性を検討します。
法令遵守:ソリューションが、業種や事業展開する地域固有の規制を含め、関連するすべての請求規制に準拠していることを確認します。
フォーマット:ソリューションが EDIFACT などの標準的な電子請求書形式をサポートしているようであれば、よりスムーズな取引が促進されるだけでなく、互換性に関する今後の懸念も払拭できます。
拡張性と柔軟性:ビジネスの進化に合わせて成長、変化するために必要なソリューションの拡張性と柔軟性を評価します。
カスタマイズ:ソフトウェアが特定のワークフローまたは業界の要件に沿ってカスタマイズできるかどうかを確認します。
ベンダーの安定性:ベンダーの市場での存在感と安定性を調査します。定評のあるベンダーは、信頼性が高く、ソリューションの更新を継続的に行っている傾向があります。
サポートサービス:可用性、応答性、技術的な専門知識など、カスタマーサポートの品質を評価します。
コスト:1 回限りの支払い、月額のサブスクリプション、取引量ベースなど、料金モデルを見積もります。このとき、セットアップ費用、メンテナンス料金、更新や追加機能にかかる料金も考慮するようにしてください。節約可能額とソリューションのコストを比較検討しながら ROI を算定します。
チームと相談し、ソリューションをテストする
レビューとケーススタディ:現在のユーザーからのレビューやケーススタディを参考に、ソリューションの有効性とベンダーのカスタマーサービスを評価します。
無料トライアル / デモ:ソリューションを最終決定する前に、ベンダーが提供している無料トライアルまたはデモを試します。これらの試用により、既存システムとの互換性、使いやすさを確認できます。
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