ここ数年、買い物のスタイルには大きな変化が見られます。SNS で新しい商品を発見し、実店舗で実物を確認、最終的にはオンラインで購入して自宅に配達してもらう。こうしたように、ひとつの商品を買うのに複数のチャネルを横断する購買行動は、今や日本の消費者にとっても日常的な行動となりつつあります。
実際、電通デジタルが 2024 年度に実施した調査によれば、日本国内において商品購入する上での比較検討段階でオンラインチャネルを利用する人が、2022 年の 50% から 2024 年には 55.7% へと増加しており、商品選びにおけるデジタルチャネルの存在感は年々高まっています。一方で、最終的な購入場所として実店舗を選ぶ人も依然として多く、オンラインとオフラインを柔軟に使い分けるチャネル横断型の購買行動が日本市場でも一般化しています。
こうした背景の中で注目されているのがユニファイドコマースです。
販売チャネルを問わず、リアルタイムで統合されたデータを活用し、一貫性のある顧客体験を提供する重要な手法として、日本を含む多くの市場でその導入が進んでいます。
本記事では、「ユニファイドコマースとは何か」をわかりやすく整理しながら、導入メリットや注意点、導入方法も取り上げ、企業が今後、どのようにユニファイドコマースを活用して行くべきかを具体的に考えていきます。
目次
- ユニファイドコマースとは
- ユニファイドコマースが注目される背景
- ユニファイドコマース導入のメリット
- ユニファイドコマース導入の課題
- ユニファイドコマースの導入方法
- ユニファイドコマースの導入事例
- Stripe Terminal でできること
ユニファイドコマースとは
ユニファイドコマース(Unified Commerce)とは、実店舗や EC サイト、アプリ、SNS などのあらゆる販売チャネルを完全に一体化させ、ひとつのシステム上でリアルタイムに統合管理する仕組みです。
従来はチャネルごとに分かれていた顧客情報や在庫、注文履歴などを共通のデータベースで管理できるため、どのチャネルからでも同じ情報にアクセスでき、顧客ひとりひとりに合わせたスムーズで統一された購買体験を提供することが可能になります。
オムニチャネルとの違い
ユニファイドコマースと目的が近いアプローチとしてよく比較されるものにオムニチャネルがあります。
両者とも複数のチャネルを行き来しながら、統一感のある顧客体験を提供することを目指しており、たとえば、実店舗で商品を確認してから EC サイトで購入したり、アプリで注文して店舗で受け取ったりといった体験は、いずれのモデルでも実現可能です。
しかし、その裏側にある仕組みやデータの扱い方には大きな違いがあります。
ユニファイドコマースは、より深い統合性とリアルタイム性を持つ、いわばオムニチャネルの進化系とも言えるでしょう。
では、具体的にどのようなところが違うのでしょうか。
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項目 |
オムニチャネル |
ユニファイドコマース |
|---|---|---|
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データのつながり |
チャネル間で一部連携も見られるが、システムは別々の場合もある。 |
すべてのチャネルがひとつのプラットフォーム上で統合されている。 |
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情報の更新のスピード |
情報反映に時間差が出ることがある。 |
情報はリアルタイムで共有・更新される。 |
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顧客体験 |
チャネルごとに体験のズレが起こることがある。 |
どのチャネルでも一貫した体験ができる。 |
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業務のしやすさ |
複数のシステムを使うため、効率が落ちやすい。 |
データやオペレーションが一本化され、業務効率が高い。 |
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主な目的 |
顧客が好きなチャネルを選べるようにし利便性を向上させる。 |
顧客行動を一元管理し、購入体験やマーケティングを最適化する。 |
表で概要はつかめるものの、まだ少しイメージが湧きづらいかもしれません。
もう少し具体的なシーンで違いを見てみましょう。
ある日、あるユーザーがスマートフォンで気になる靴を見つけて、「実際に試着してから買いたい」と思ったとします。
オムニチャネルの場合:
オンラインストアで靴の情報は確認できますが、近くの店舗に在庫があるかまではわかりません。「店舗に足を運んだものの在庫がなかった。」というケースがオムニチャネルに当てはまります。
オムニチャネルでは、店舗、EC で別々のシステムを使っていることが多く、在庫確認や取り寄せの対応に時間がかかることもあります。
ユニファイドコマースの場合:
オンラインで見つけた靴がどの店舗に何足あるかリアルタイムで表示され、試着予定や店舗受け取りもそのまま手続き可能です。
さらに来店時にはスタッフが顧客の過去の購入履歴やサイズ、好みなどを元に、「前回と同じブランドの新作が入荷しています。」「この靴と似たデザインでより軽量なモデルもありますよ。」といったパーソナライズされた提案や接客も可能になります。
ユニファイドコマースでは、在庫やチャネルだけでなく、顧客情報の一元管理によって、接客の質まで大きく変えることができます。
OMO との違い
次に OMO との違いを見ていきましょう。OMO は Online Merges with Offline (オンラインとオフラインの融合) の略で、オンラインと実店舗での体験をシームレスにつなげるマーケティング手法です。
アプリ、SNS、位置情報、顧客行動データなどを活用し、ユーザーのオンライン上の関心をリアル店舗での購買行動へとスムーズに接続します。
OMO も、ユニファイドコマースと近い考え方ですが、以下の点で違いがあります。
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項目 |
OMO |
ユニファイドコマース |
|---|---|---|
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主な目的 |
オンラインとオフラインの体験をシームレスにつなげる。 |
全販売チャネルを統合し、どこでも同じ体験ができるようにする。 |
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視点の中心 |
顧客が使うアプリ、SNS、店舗などを重視して購入体験を作る。 |
最適化のために顧客の購入体験だけでなく、顧客情報、注文、在庫など、バックエンドのシステムもすべて統合しひとつのシステムで管理する。 |
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代表的な施策 |
クーポン、QR コード、SNS、店頭サイネージなど |
来店予約、在庫確認、購入履歴に基づく提案、個々に合わせたクーポンなど |
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システム構造 |
チャネルごとにシステムは分かれているが、購入体験がつながるよう設計されている。 |
すべてのチャネル、データがひとつのシステムでリアルタイムに連携している。 |
こちらも表だけでは少しわかりにくいので、具体的なシーンで違いを見ていきましょう。
OMO の場合:
あるユーザーは、ブランド公式アプリで自分好みの新作リップを見つけました。アプリ上に、近くの店舗で取扱中と表示されていたため、店舗に足を運びました。
到着すると、店頭のサイネージにそのリップのプロモーション動画が流れていたり、店内 POP にはアプリを提示すると 10% 割引になる QR コードつきクーポンがありました。
購入する前に、スタッフに商品についての質問もできましたが、接客はごく一般的なものに終わりました。
OMO は、このようにオンラインで得た関心がオフラインへスムーズにつながるようにすることが目的です。ただし、接客や提案の内容はその場限りの体験にとどまりやすい傾向があります。
ユニファイドコマースの場合:
同じくユーザーは、ブランド公式アプリで自分好みの新作リップスティックを見つけました。しばらく購入していなかったため、一定期間購入していない顧客だけに配布される 20% 割引のクーポンもアプリに入っており、気に入った商品があればクーポンを使いたいと思っていました。
アプリには「過去に購入した A 店舗に在庫あり」「前回購入したファンデーション オークル 10 にぴったりのリップスティック」などの表示があります。アプリから予約もでき、クーポンもちょうど使用したいと思っていたため、ユーザーはそのまま予約し、後日、実店舗にリップスティックを引き取りに行くことにしました。
ユーザーが来店した時、店舗スタッフは、ユーザーの過去の購入履歴から、その他の化粧品で興味がありそうなものやファンデーションの色番、クーポンの有無、前回の購入からの期間などを既に把握しています。スタッフは、ユーザーの好みに合った他のリップカラーや、前回のファンデーション、新しいスキンケアの提案などを行い、すべての商品に割引クーポンが使用可能であることを伝えました。
顧客情報、在庫、購入履歴がすべてリアルタイムで統合されているからこそ、データに基づいた体験とサービスを提供できるのがユニファイドコマースの強みと言えるでしょう。
ユニファイドコマースへが注目される背景
スマートフォンの性能向上や SNS の進化、そしてコロナ禍による生活スタイルの変化も相まって、購買行動は大きく変化しています。日本でも、情報収集から購入まで、複数のチャネルを横断するスタイルが一般的になってきました。
こうした行動に応えるためには、どの接点でも整合性の取れた体験を提供できる仕組みが欠かせません。そこで注目されているのが、チャネル間のシステムやデータを裏側から一元化するユニファイドコマースです。
テクノロジーの進化と消費行動の複雑化
テクノロジーの進化と共に、スマートフォンからでも手軽に商品を探したり、外出先からでもストレスなく購入できるようになりました。さらに、インスタグラム販売のような SNS から直接商品を買えるソーシャルコマースも広がってきています。
一方で、日本では商品を手に取って確かめてから買いたいという消費者心理が根強く残っており、オンラインと実店舗を場面ごとに使い分ける行動も多くみられます。
一貫性とパーソナライズが求められる時代へ
多くの消費者が、どのチャネルでもシームレスな体験と自分に合ったサービスを求めるようになっています。
アドビシステムズ株式会社が行った調査によると、日本の消費者の約 6 割がパーソナライズされた買い物体験を期待していると答えています。
このような複雑化する購買行動への対応や、パーソナライズされた買い物体験を提供するために、ユニファイドコマースが注目されています。
チャネルをまたいでも常に同じ品質の体験を提供し、その上でひとりひとりの好みや履歴に合わせた対応ができることは、顧客満足度の向上やブランドへの信頼構築につながる、大きな価値と言えるでしょう。
ユニファイドコマース導入のメリット
ユニファイドコマースを導入することで、企業は販売や顧客体験の向上だけでなく、業務効率や収益性の改善も期待できます。ここでは特に長期的な視点から見た利点を整理します。
長期的な運営コスト削減
販売チャネルや在庫、注文情報をひとつのシステムで管理できるため、在庫ロスや人件費、システムの重複管理コストを削減できます。特に複数店舗や EC サイトを展開する企業では、長期的に大きなコスト削減効果が見込めます。
顧客満足度とロイヤルティの向上
リアルタイムで統合された顧客データに基づき、パーソナライズされた提案やサポートを提供できるため、顧客満足度やリピート購入率が向上します。こうした取り組みが、長く愛される売上基盤づくりに結びつきます。
ユニファイドコマース導入の課題
一方で、ユニファイドコマースの導入には短期的な負担や運用上のハードルも存在します。これらを理解しておくことは、導入計画を成功させるうえで重要です。
高額な初期投資
既存システムを統合するには、システム開発費や移行費用がかかります。短期的にはコスト負担が大きくなるため、投資回収計画を慎重に立てる必要があります。
こうした費用負担を軽減するために、自治体や国が提供する補助金や助成金制度を活用するのも有効な方法です。
運用体制と人材の再構築
新しいシステム環境では、運用フローや顧客対応の方法も変わるため、社内教育や業務再設計が必要です。特に部門間の連携不足やデータ活用スキルの不足が、導入後の公開を制限してしまうリスクがあります。
ユニファイドコマースの導入方法
ユニファイドコマースを効率的に導入するには、一度にすべてを切り替える必要はありません。自社の状況やリソースに合わせ、段階的に進めることが成功への近道です。
現状分析と目標設定
- 現在の販売チャネル (店舗、EC サイト、SNS など) とその運用状況を把握する。
- 顧客データ、在庫データ、受注処理の流れを可視化する。
- 「どの課題を解決したいのか」「どんな顧客体験を提供したいのか」を明確にする。
導入するシステムの選定
ユニファイドコマースでは、販売や顧客情報を一元管理できるシステムの選定が重要になります。具体的には次のような選択肢があります。
- POS (販売時点情報管理システム) : 店舗での会計や売上データを管理する。
- OMS (受注管理システム) : オンライン、オフラインを問わず、注文受付から発送までを管理する。
- CRM (顧客管理システム) : 顧客の基本情報や購入履歴を記録し、パーソナライズ対応に活用する。
- 在庫管理システム : 全チャネルの在庫状況をリアルタイムで把握する。
- ERP (基幹業務システム) : 販売、在庫、会計など、会社全体の業務を統合する。
- 決済統合ソリューション : 店舗とオンラインの決済を一体化する。
システム統合と運用設計
- 選定したシステム同士を連携させ、データをリアルタイムで共有できるようにする。
- 在庫、顧客、注文データを一元化する。
- 店舗スタッフやカスタマーサポートが同じ情報を参照できる環境を構築する。
- 運用ルールを明確にする。
社内トレーニングとテスト運用
- 店舗スタッフやカスタマーサポートに新しいシステムやツールの操作方法をトレーニングする。
- 試験的に一部店舗や商品で運用し、不具合や改善点を洗い出す。
- 顧客からのフィードバックを反映し、本格運用に備える。
最終的には、販売チャネルや顧客情報、在庫データなどを一元的に管理できる状態を目指しますが、最初からすべてを統合する必要はありません。既存のシステムを活かしながら、段階的に統合していくことで、負担を抑えつつ着実にユニファイドコマースを実現できます。
ユニファイドコマースの導入事例
ここまでユニファイドコマースの背景やメリット、導入のステップについて見てきました。では、実際に導入した企業は、どのような課題を抱え、それをどのように解決し、どのような成果を上げたのでしょうか。ここでは具体的な事例を取り上げ、導入後の効果を分かりやすく紹介します。
Castlery
まずは家具ブランドの Castlery のケースを見ていきましょう。
課題
Castlery は店舗とオンラインストアを運営していましたが、店舗での決済後に顧客データや決済情報を手動でシステムに入力する必要がありました。特に返品対応には最大 2 週間かかることもあり、顧客満足度やスタッフの作業負担が課題となっていました。
解決策
店舗とオンラインの決済、顧客情報をリアルタイムで連携できるシステムを導入しました。購入履歴や在庫情報が即時に共有されることで、業務の二重管理をなくしました。
導入後には次のような効果が見られました。
- 返品処理が数週間から数日に短縮
- スタッフの手作業負担を大幅に削減
- オンライン、オフラインを問わず、顧客の購入履歴を確認でき、ひとりひとりに合わせた接客やより的確な提案が可能に
- 会計や在庫管理の精度も向上し、全体的な業務効率が改善
Traxero
次に、ロードサービス事業者向けに配車管理や車両追跡、顧客対応などの業務を効率化するソフトウェアプラットフォームを提供している Traxero のケースをご紹介します。
課題
従来の決済システムでは、オンラインと対面の支払いで取引状況や返金の情報が確認しづらく、リアルタイムに把握することが困難でした。その結果、支払いの透明性や顧客対応に支障をきたしていました。
解決策
Traxero は、支払いと返金を一元管理できる統合プラットフォームを導入し、オンライン、対面の両決済に対応する体制を構築しました。この新しい仕組みを 4 週間という短期間で稼働させることに成功しています。
導入後には次のような効果が見られました。
- 顧客の取引や返金状況をリアルタイムで確認可能に
- 決済管理の効率化により、事務処理時間を短縮
- 顧客対応のスピードと質が向上
- 開発リソースを抑えつつ、新機能を迅速に追加
- 業務遂行スピードが全体的に改善
上記のケースからわかるように、ユニファイドコマースは販売チャネルや決済手段の統合にとどまらず、在庫管理や顧客対応といった企業活動全体の質を底上げすることができます。適切に活用すれば、業務効率と顧客満足度の両方を同時に高める強力な手段となるでしょう。
日本市場でも、実店舗と EC を併用する企業は同様の課題やニーズを抱えており、こうした海外事例は国内でのユニファイドコマース導入を検討するうえで貴重な参考となります。
Stripe Terminal でできること
Stripe Terminal はユニファイドコマースのためのソリューションです。対面チャネルとオンラインチャネルを統合し、収益拡大を実現させます。新しい支払い方法、シンプルなハードウェア、グローバルな対応、数百の POS とのコマース連携により、理想的な決済環境を構築できます。
Stripe は、Hertz、URBN、Lands’ End、Shopify、Lightspeed、Mindbody などのブランドのユニファイドコマースを強化しています。
Stripe Terminal の特徴
- ユニファイドコマース: オンラインと対面での決済をグローバルプラットフォームで一元管理します。
- グローバル展開: 1 つのシステムと一般的な決済手段で、24 カ国への拡大が可能です。
- 自社に合った導入: 独自のカスタム POS アプリを開発するか、サードパーティの POS や EC システムを使って既存のテックスタックと連携できます。
- シンプルなハードウェア: Stripe 対応のリーダーを注文、管理、監視できます。
Stripe Terminal について詳しくはこちら をご覧ください。今すぐ開始する場合はこちら。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。