電子決済は今日の日本において、EC モール などのオンラインショッピングだけでなく、コンビニやレストランなど多くの実店舗でもさまざまなものが導入されています。現金を持ち歩かなくても支払いができる電子決済には事業者側、消費者側の双方にとってさまざまなメリットがあります。
私たちの日常生活の中でより一般化する電子決済ですが、電子決済とは具体的に何を意味するのでしょうか。また、普及が進む背景には何があるのでしょうか。本記事では、日本で普及する電子決済の基礎知識について、普及の背景、電子決済の種類、メリット・デメリットなどを踏まえて解説します。
目次
- 電子決済とは
- 日本の電子決済の市場規模
- 電子決済の普及が加速する背景
- 電子決済の種類
- 事業者が電子決済を導入するメリット
- 事業者が電子決済を導入するデメリットと注意点
- 消費者が電子決済を利用するメリット
- 消費者が電子決済を利用するデメリット
- 電子決済を導入して顧客満足度アップを実現するために
電子決済とは
電子決済とは、その名のとおりデジタルデータ化されたお金 (電子マネー) を用いて支払いができる決済サービスのことです。つまり、電子決済では物理的な現金によるやりとりではなく、電子的なシステムによって決済処理が行われます。
電子決済の主な例としては、クレジットカード、デビットカードなどのカード決済や、QR コード 決済のように決済アプリを利用したモバイル決済 (スマホ決済) などがあります。後ほど「電子決済の種類」にて詳しく解説します。
キャッシュレス決済との違い
電子決済とキャッシュレス決済、これら 2 つの違いについては混乱されがちですが、キャッシュレス決済は、現金を使用しない決済手段全般を意味します。そのため、キャッシュレス決済の定義は幅広く、小切手、トラベラーズチェック (日本では 2014 年に新規発行を終了) なども含まれています。一方、電子決済はキャッシュレス決済の一部として位置付けられており、「お金のデジタルデータを利用した決済手段」と、キャッシュレス決済をより掘り下げた意味になります。
支払処理のタイミング
電子決済が行われた場合の支払処理のタイミングは、以下にある 3 つのタイプに分けられます。
- プリペイド型 (前払い): 事前に IC カードや決済アプリに金額をチャージしておく方法です。チャージ済み金額を超える決済は不可となります。
- ポストペイ型 (後払い): 購入者の銀行口座から商品の購入代金が後日引き落とされる方法です。クレジットカード決済、または決済アプリにクレジットカード情報を連携することで利用が可能です。
- デビット型 (即時払い): 電子決済で支払いを行ったと同時に、銀行口座から代金が引き落とされる方法です。銀行口座にある残高を超える決済は不可となります。デビットカード決済、デビットカードと決済アプリの連携、インターネットバンキングなどがあります。
入金までの仕組み
電子決済によって代金が支払われた場合、以下のような仕組みで最終的に販売者への入金が完了します。なお、この仕組みは前述した「プリペイド型」、「ポストペイ型」、「デビット型」とで違いはありません。
- 商品の購入者が EC サイトや実店舗などで支払いを行う
- 決済代行業者 による決済に関する電子データの確認と認証
- 電子マネー決済機関による決済処理の実行
- 電子マネー決済機関から決済代行業者に入金
- 決済代行業者から加盟店 (商品の販売者) に入金
日本の電子決済の市場規模
電子決済の利用率は年々上昇傾向にあります。総務省 が 2025 年 3 月に公表したグラフによると、日本の電子決済比率は 2024 年に 42.8% に達し、政府が目標としていた 4 割を超える結果となりました。また、日本政府は、将来的にこの比率が 80% に達成するよう必要な環境整備をさらに推し進めて行くとしています。
電子決済の普及が加速する背景
先ほどの「日本の電子決済の市場規模」からもわかるように、電子決済の利用額は年々増加しています。このように電子決済の普及が進む背景には、4 つの点が挙げられます。
コロナ禍によって衛生意識が強まった
現金の手渡しが不要な電子決済は、コロナ禍を経てより一般化しました。コロナ禍以降、人々の衛生意識は大きく変化し、実店舗での買い物時、多くの人が感染防止のために互いの接触を控えるようになりました。このことが電子決済の普及を強く後押ししたと考えられます。
店舗の人員不足
日本における少子高齢化の進行にともない、事業者によっては人手が十分に足りていないケースがあります。また、長期的な視点からすると、多くの現場で今後の労働人口の減少に対処する必要性がより高まることが懸念されています。
事業者がこうした人員不足に対処するにあたっては、ビジネスの方針を見直し、多方面における生産性や効率性を向上させて行くことが求められます。電子決済の導入も、その取り組みの 1 つとして期待されています。
インバウンド対策
近年、訪日インバウンドの需要が拡大する中、訪日旅行客が日本でスムーズに買い物ができるようにするため、決済手段の多様化を図る事業者が増えています。たとえば、最近では WeChat Pay のように中国で人気の決済サービスを提供する店舗も見られます。
現金決済にかかる負担・コストの軽減
現金に関わる会計および管理業務の負担やコストを軽減することを目的として、電子決済中心のビジネスを行う事業者もいます。電子決済なら金銭の偽造、盗難などの被害や、釣り銭の渡し間違いといったトラブルを防止でき、決済業務上の効率性と安全性の向上にもつながります。
電子決済の種類には何があるか?
利用可能なさまざまな種類の電子決済手段を見てみましょう。これらは、主にモバイル、クレジットカード、オンライン銀行決済の 3 つのカテゴリーに分類されます。
モバイル決済 (スマホ決済) |
カード決済 |
そのほか |
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(カード決済にも左記の NFC 技術が搭載されている場合があります) |
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QR コード決済
QR コード決済とは、その名のとおり QR コードまたはバーコードを読み取ることで決済が完了できる方法です。スマートフォンなどのモバイル端末に決済アプリを事前にダウンロードしたうえで、アカウントへの登録が必要になります。QR コード決済を決済時に利用すると、紐付けされたクレジットカードや銀行口座から代金が引き落とされる仕組みとなります。
また、QR コード決済を利用する場合、販売者か購入者のどちらかが QR コードを提示する流れとなり、以下の 2 種類のタイプに分けられています。
ユーザースキャン型 (店舗掲示型): 事業者側 (販売者) が提示する QR コードを消費者のモバイル端末で読み込み、金額を入力することで支払いが完了
ストアスキャン型 (消費者掲示型): 消費者のモバイル端末画面に表示された QR コードを事業者側がスキャンしたうえで金額を入力し、決済を実行する方法
キャリア決済
キャリア決済とは、docomo、au、SoftBank などの大手携帯キャリアが提供する決済サービスで、消費者は商品代金と携帯電話の通信料金を合算して支払うことができます。キャリア決済の場合、消費者が携帯電話を契約した際、既に各携帯キャリアとの本人認証や支払方法などの設定が済んでいるため、改めてクレジットカード情報などを提供する必要がなく、決済にかかる手間を省くことができます。
ただし、キャリア決済による支払いは一括のみ、且つ利用可能金額には上限があります。そのため、高額商品には使えない場合があるため注意が必要です。
NFC 決済 (非接触 IC 決済)
NFC 決済 とは、「NFC」、すなわち近距離無線通信 (Near Field Communication) 技術を取り入れた非接触型 IC 決済を意味します。NFC 決済を利用する場合、非接触 IC チップが搭載されたスマートフォンやクレジットカードを決済専用端末にかざすだけでデータ通信が可能となります。そのため、NFC 決済は一般的にタッチ決済と呼ばれています。
プリペイドカード決済
プリペイドカード決済とは、カードを利用する前に現金をチャージしておくことで支払いができる電子決済です。プリペイドカードの代表例には、交通系 IC カードの PASMO や Suica、流通系の nanaco や Ponta などが挙げられます。チャージ方法は簡単で、銀行 (オンラインバンキングを含む) やコンビニエンスストアのほか、交通系 IC カードであれば、駅の券売機やチャージ機でチャージができます。
プリペイドカードであれば、カードにチャージされた金額以上の利用はできないため、浪費の心配がなく、高齢者や子どもでも現金の代わりに安心して持ち歩くことができます。
クレジットカード決済
クレジットカード決済は、日本で最も普及している代表的な決済手段です。EC サイトや実店舗での買い物のほか、公共料金の支払いにも用いることが可能です。
クレジットカード決済は消費者の信用 (クレジット) によって成り立っています。そのため、代金の請求は実際にクレジットカードを利用した日ではなく後日まとめて行われ、事前に紐付けされている銀行口座からあらかじめ決められた日程で引き落とされる仕組みとなります。
なお、最近では前述のようなタッチ決済機能が搭載されたクレジットカードも増えています。
デビットカード決済
デビットカード決済の場合、クレジットカードとは異なり、商品の購入が完了した時点で銀行口座から代金が引き落とされる仕組みとなります。原則として、銀行口座に預けている残高を超える支払いはできないため、お金の管理がしやすく、カードを使い過ぎるリスクを回避できます。一方、クレジットカードのような分割払いやリボ払い 、キャッシングは不可で、一括払いのみに対応しています。
銀行ネット決済
銀行ネット決済とは、インターネットを通して銀行の専用サイトで支払いができる決済方法のことです。紙ベースの通帳を銀行の窓口や ATM に持参する必要がなく、いつでもどこでもパソコンやスマートフォンを利用して、専用サイトにログインすれば取引を行える点が最大のメリットです。
事業者が電子決済を導入するメリット
電子決済を導入する事業者側のメリットには以下のようなものが挙げられます。
レジ業務の効率化と簡素化
現金で取引を行う場合、釣銭が必要なため小銭やお札を十分に準備しておかなければなりません。一方、電子決済であれば、こうした現金管理の手間が省けるほか、決済がスピーディーに完了するためレジ周辺が混在しにくくなります。また、釣銭の渡し間違いも発生しません。このように支払時のプロセスが効率化されれば、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
販売機会の拡大
複数の電子決済サービスを導入することで、幅広い客層に対し利便性をアピールできるため、販売機会の拡大につながります。「このお店なら自分がよく利用する電子決済で支払える」という理由で来店する人が増える可能性が高くなり、リピーターの獲得も期待できるでしょう。
また、先ほど「電子決済の普及が加速する背景」で解説したように、海外からの訪日旅行客をターゲットとする事業者であれば、インバウンド対策として海外でよく利用されている決済手段にも対応しておくと、より効果的です。
客単価の向上
現金決済の場合、手元にある金額を超える買い物はできません。しかし、安全性を考慮すると、高額な現金を持ち歩くことはできれば控えたいものです。電子決済なら、手持ちの現金がなくても決済が可能で、且つ「支出」という実感が湧きにくくなるため、1 人あたりの利用金額が高くなる可能性があります。
事業者が電子決済を導入するデメリットと注意点
事業者が電子決済を導入するデメリットと注意点については、以下のとおりです。
導入コストや各種利用料・手数料がかかる
電子決済の導入にはイニシャルコストのほか、月額利用料や決済手数料の負担が生じます。たとえば、前者に関しては、決済専用端末の導入に費用が生じます。これらの費用については、知らないうちにかさんでしまうこともあるため注意が必要です。
注意点: 契約する決済サービスや決済代行業者に支払う各種料金について、料金体系を十分に確認しておきましょう。
決済専用端末に不具合が生じると決済ができなくなる
決済端末の故障、あるいは悪天候による停電が原因で、決済端末のシステム障害や通信トラブルが発生すると、電子決済は復旧作業が終わるまで一切不可能となってしまう恐れがあります。そのため、こうしたリスクへの対応策を立てていないと、販売機会を損失し、売上が下がってしまうかもしれません。
注意点: 万が一のトラブルを想定して、決済端末を供給する事業者側にいつでも連絡がとれるようにしておき、リスク管理やサポート体制についても確認しておきましょう。また、問題発生時に備えてマニュアルを作成し、スタッフに周知しておくことも大切です。さらに、現金を含む複数の決済手段に対応しておくことも忘れないようにしましょう。
現金化までに時間を要する
電子決済を取り扱う際の資金繰りには十分注意しましょう。電子決済は現金決済とは異なり、売上金額をすぐに受け取れる仕組みではありません。そのため、実際に商品を販売する事業者側に代金が入金されるまでには、ある程度の時間がかかるということを理解しておく必要があります。これに加え、前述の導入費用や決済手数料も考慮すると、費用対効果を見極めながら安定した財務管理を行うことがとても大切です。
注意点: 入金サイクルを事前に把握し、翌日から 1 週間などの比較的短めの入金サイクルが設定可能な決済サービスを検討するのも対策の 1 つです。
消費者が電子決済を利用するメリット
ここでは、消費者が電子決済を利用すると、どのようなメリットがあるのかを見てみましょう。
現金を持ち歩く必要がない
日常生活において電子決済を活用すれば、現金を手元に準備しておく必要がなくなります。そのため、買い物中に ATM に立ち寄って現金を引き出すといった煩わしさが軽減されます。また、外出中に財布を忘れた場合でも、スマートフォンを用いた電子決済を利用可能にしておくことで、支払時に困ることはありません。このほか、高額な現金を持ち歩かないように習慣付けておけば、盗難や紛失の防止にもつながります。
スピーディーに支払いができる
スマートフォンやクレジットカードを決済端末にかざしたり、QR コードの読み取りだけで代金を支払うことができる電子決済なら、現金決済のように小銭やお札の出し入れなどに時間をかけることなくスピーディーに決済が完了できます。
過去の購入履歴を把握できる
いつ・どこで・なにを・いくら買い物したか、支出内容を把握しておくことはとても大切です。電子決済の場合、アプリなどから必要な際にいつでも購入履歴を確認できるため、紙ベースのレシートを整理したり保管する必要もなく、家計管理がしやすくなります。
ポイントを貯めてお得に買い物できる
クレジットカード決済や QR コード決済などの決済サービスによっては、キャッシュバックやポイント還元キャンペーンが実施されていることがあります。この獲得ポイントを利用すれば、お得に買い物ができ、現金で購入するよりも節約につながる場合もあります。
消費者が電子決済を利用するデメリット
電子決済の利用にあたっては以下のようなデメリットが挙げられます。あらかじめ理解しておきましょう。
決済サービスによってはチャージが必要
プリペイドカード決済のように、事前にお金をチャージしておく必要がある決済手段の場合、チャージの手間と時間がかかることを覚えておきましょう。プリペイドカードに十分な金額がチャージされていないと利用ができないため、急いでいる時などは特に注意が必要です。
不正行為のリスクがある
電子決済を利用するには、決済サービスへの登録が必要です。その際、個人情報を提供しなければならないため、利用に際して抵抗を感じる人もいるかもしれません。電子決済の利用前にはまず、各決済サービスではどのような不正防止対策が実施されているかを確認し、安全性を見極めてから利用するかしないかを判断しましょう。
また、不正利用の被害に遭うことなく電子決済を安全に利用できるよう、強固なパスワードや生体認証を設定しておくほか、外出時はパソコンや携帯電話の画面を盗み見られないよう日頃から十分に気をつけることが大切です。
電子決済が利用できないケースがある
ふとした不注意からスマートフォンが故障したり、クレジットカードが破損してしまったことで、電子決済ができなくなるケースがあります。そのため、決済手段は 1 つだけでなく、複数利用できるようにしておくようにすると安心です。たとえば、スマートフォンが使えなくなる事態を考慮して、クレジットカードや現金をある程度持っておくようにし、モバイル決済以外でも支払いができるようにするとよいでしょう。
このほか、電子決済にはさまざまな種類がありますが、電子決済に未対応の店舗も存在します。そのため、外出中はスマートフォンやクレジットカードに頼り過ぎると、思わぬところで支払いができない場合があるため注意しましょう。
なお、これから電子決済の利用を検討中の場合、日常的によく利用する実店舗や EC サイトではどのような電子決済が導入されているかを調べたうえで、自分に合った決済サービスを選ぶようにしましょう。
電子決済を導入して顧客満足度アップを実現するために
決済手段の選択肢が増えると、消費者はより快適に買い物を楽しめるようになります。これによって多くの消費者の満足度が向上すれば、自社商品・サービスの継続利用、店舗への再訪を見込むことができ、売上アップにもつながります。
電子決済には多種多様な決済手段があり、事業者がどれを導入するべきかは、取り扱う商品・サービス、客層によって異なります。そのため、事業者は各決済手段の必要性を十分に考慮し、売上アップを見込めるかどうかを見定めたうえで、決済手段を決めるとよいでしょう。また、複数の決済手段を同時に導入したい場合は、購入トレンドの分析や売上高の管理など、充実したサポート体制が整っている決済代行業者を利用すれば、より心強いといえるでしょう。
Stripe では、クレジットカード決済などさまざまな電子決済の導入をはじめとし、情報処理や収益管理など、日々の決済業務の効率化を後押しするツールや機能を幅広く提供しています。たとえば、Stripe Payments なら、自社システムの開発を行わずに事業スタイルに合った決済環境を構築できるだけでなく、安全面を重視した高いセキュリティ対策を設けているため、消費者が安心できるショッピング体験を提供することが可能です。
Stripe を活用すれば、決済プロセスの簡素化や運用コストの削減など、多くのメリットを得られるほか、複数の決済方法の導入により、サービス全体としての利便性を高め、売上の向上を図ることができるでしょう。
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