リカーリングというビジネスモデルについて聞いたことがあるでしょうか。リカーリングとは、契約に基づいて一定の間隔で顧客が繰り返し料金を支払うことで、継続的な収益 (経常収益) を得るサービスを指します。
従来は、商品の販売によって商品ごとの一時的・単発的な収益を生み出すビジネスモデル (売り切り型) が一般的でした。しかし、今日では商品の販売後に取引が完全に終了するのではなく、継続的・定期的な収入を生み出すための多様ななビジネスモデルが主流になりつつあります。リカーリングビジネスもそのうちの 1 つです。
本記事では、リカーリングについて、メリット・デメリット、注意点などについて解説します。
目次
- リカーリングとは?
- リカーリングビジネスのメリット
- リカーリングビジネスのデメリット
- リカーリングビジネスの注意点
- リカーリングビジネスと相性の良いサービス
- リカーリングビジネスの事例
- リカーリングビジネスで収益アップを目指すために
リカーリングとは?
リカーリング (Recurring) とは、英語で「繰り返す」、「再発する」を意味します。
事業者が顧客とのリカーリング契約に基づいて、継続的に提供する商品やサービスから繰り返し生じる収益のことを「経常収益 (Recurring Revenue)」と呼びます。つまり、このリカーリングビジネスとは、1 回だけの売り切りではなく、商品・サービスを提供することで発生する顧客からの継続課金によって経常収益を得るビジネスモデルをいいます。
たとえば、代表的なリカーリングのビジネスモデルには、複合機と交換トナー、ゲーム機とゲームソフトなどが挙げられます。複合機の利用においては、定期的なトナーの交換が必要であり、ゲーム機で多数のゲームを楽しむにはゲームソフトの購入が必要となります。
このように、リカーリングは、ユーザーが繰り返し利用するサービスや商品から収益を上げる仕組みとなっています。
サブスクとリカーリングの違いとは?
サブスク (サブスクリプション) とは、一定の料金を定期的に支払うことで継続的なサービスを受けられるビジネスモデルです。サブスクの代表的なサービスとしては、映画や音楽、電子書籍などのストリーミング (コンテンツ配信) が挙げられます。
サブスクも顧客にサービスを利用してもらうことで、定期的・継続的な収益を得る仕組みであるため、先ほどの経常収益に基づくビジネスモデルの 1 つといえます。サブスクもリカーリングも、経常収益の獲得を目的とし、継続的に料金を回収するという点では同じです。ただし、基本的にサブスクリプションは「定額制」、リカーリングは主に「従量制」のビジネスモデルなため、それぞれの料金システムが異なります。よって、前述のストリーミングサービスについても同様に、顧客が支払う利用料金は定額です。
一方、従量制のビジネスモデルとなるリカーリングは、使用状況に応じた請求額が発生するため、支払額はその都度異なります。たとえば、電気・水道・ガスなど、リーカーリングに当てはまる光熱費の場合、月額基本料金に加え、使用分に応じた使用料を加算した合計金額を支払います。そのため、使用した分量に応じて毎月の請求金額は変化します。
ストックビジネスとリカーリングに違いはある?
ストックビジネス (またはストック型ビジネス) とは、顧客との契約によって長期的にサービスを提供することで継続的で安定した収益を確保するビジネスモデルを指します。したがって、定額制のサブスクや従量制のリカーリングもこのストックビジネスに含まれます。
したがって、ストックビジネスとリカーリングに違いがあるという訳ではなく、定額サービスと従量課金の両方がストックビジネスに当てはまり、リカーリングもストックビジネスの 1 つとなります。

リカーリングビジネスのメリット
安定した収益を得ることができる
リカーリングビジネスの場合、一旦軌道に乗ると長期的な視野で収益を見込むことができます。たとえば、スーパーで食品を一度だけ購入した場合、そこで取引は終了します。しかし、自宅やオフィスへの定期配送サービスを顧客が利用する場合、配送のたびに購入した分の売上が定期的に発生するようになります。
このように、リカーリングビジネスでは、利用者がいる限り常に継続的な収益を得られることが最大のメリットといえます。
利便性の高い安価なものを顧客に提供できる
リカーリングビジネスでは顧客の利便性を重視しています。一度きりの購入の場合、商品が必要になるたびに購入手続きをしたり、店頭に足を運ぶなどの手間や時間がかかります。また、単発で商品やサービスを購入する方が、価格が高めに設定されている場合もあります。
一方、リカーリングビジネスを利用すると、購入にかかる手間が省けるほか、より安価な価格で商品やサービスの提供を受けられることもあります。また、これによって顧客の満足度が上がれば、結果として顧客の定着率の向上につながります。
データをもとに戦略を立てられる
リカーリングビジネスによって集められる売上や顧客のデータは、今後の販売戦略においても有効に活用することができます。
このようなデータに基づくマーケティングができるようになると、より適格にターゲット層へのアプローチがしやすくなります。たとえば、年齢、性別、地域、時期 (または季節) などによって、販売数の多い商品や、購入者の年齢層などが分かると、時期を見定めて特定の顧客層をターゲットにしたキャンペーンを実施することができます。
リカーリングビジネスのデメリット
経常利益よりも支出が大きくなるリスク
経常収益より支出が上回ることで、結果として継続的な利益を生み出すことができない場合があります。したがって、消費者の満足度を考慮することも大切ですが、価格を低く設定し過ぎることで損益分岐点を下回ることのないよう注意が必要です。
例えば、顧客満足度を過度に重視し、配送料金を無料に設定したことにより、自社で負担しなければならない配送料金が想定外に膨らんでしまうケースが挙げられます。このほか、商品の発送準備や品質管理などの人件費が予想を上回る支出となることもあります。
初期の投資額が回収できないリスク
リカーリングビジネスを開始する初期段階において、宣伝や広告に資金を投入し過ぎたために、なかなか初期投資にかかった出費額を回収できないというリスクが生じることもあります。
たとえば、ビジネスが順調に進むまでに時間がかかる中、サービスの解約率が高く、顧客のライフタイムバリュー (LTV) が上がらない状況に陥ってしまった場合、初期投資の回収が不可能となり、ビジネスを続けることが難しくなることもあります。
価格競争に陥るリスク
取り扱う商品やサービスに、他社と差別化できるような独自性や個性などのアピールポイントが少なく、他社と似通っている場合、価格競争に直面する可能性があります。特に新規参入者が増えやすい類似商品やサービスにおいては、市場が飽和状態になることで価格競争が起こると、自社の利益率が下がるリスクも考えられます。
リカーリングビジネスの注意点
リカーリングビジネスにおいて、先ほど解説したようなデメリットを回避するためには、以下の点に注意する必要があります。
ある程度の資金を確保しておく
リカーリングで実際に収益を生み出すまでには時間がかかります。そのため、収益が出ない間も事業を確実に続けられるよう、ある程度の資金が必要となります。また、ビジネスの立ち上げを検討する事業者は、ビジネスが認知され始め、ある程度の顧客を獲得できるようになるまでの資金繰りに困らないように、あらかじめしっかりと計画を立てることが大切です。
問題が生じた時は迅速に対応する
事業者は利益を取りこぼすことのないよう、常に態勢を整えてリスクマネジメントを講じる必要があります。
たとえば、運営するショッピングサイト上で技術的な問題が発生するなど、何かしらの不具合によって顧客が満足のいくサービスを受けられなかった場合に、事業者側が適切な対応を怠ってしまうと、顧客が離脱する可能性があります。このようなリスクを回避するには、原因をできるだけ早急に徹底解明したうえで問題への対策を立て、今後のサービスの改善に努めていくことが事業者に求められます。
市場を把握する
時代に合ったサービスを提供するためには、市場の最新情報や動向に敏感になり、常に顧客の求めるものを追求し、ターゲットとなる客層を分析・把握することも大切です。
たとえば、化粧品の定期配送サービスを利用する顧客の年齢層について、主に 20 代から 30 代が最も多い場合、この年齢層で確実に売上を伸ばしているカテゴリーを細かく分析し、特定年齢層のトレンドを意識した商品をより多く取り入れることも 1 つの戦略です。
リカーリングビジネスと相性の良いサービス
特有のファンが集中する業界
アニメやゲームなど、特定の趣味や関心ごとに対して独自のファンが集中しやすいサービスについては、ある程度の集客を見込みやすく、リカーリングビジネスに向いているといえるでしょう。
独自の流通ネットワークを確立している
野菜や果物などの生鮮食品や日用品の定期配送サービスを提供する際に、独自の流通ネットワークが確立されていると、迅速でスムーズな出荷準備や配送が可能になり、顧客も安心して利用することができます。
リカーリングビジネスの事例
コープ・生協
生鮮食品・日用品などさまざまな商品を取り扱うコープ・生協の宅配サービスでは、最低注文金額がなく、1 品からでも配送が可能です。また、ライフスタイルとニーズに合わせて利用できるため、毎週必ず注文する必要はありません。日本全国に展開しているため、引っ越しした場合にも転居先から宅配サービスを受けられます。
コープ・生協の場合、登録すると、基本的に週 1 回、あらかじめ決めておいた曜日や時間帯で、事前に注文した週で異なるさまざまな品物が届けられます。ただし、上述したように、毎週注文が必須というわけではなく、旅行で不在になる場合など不要なときはスキップして、必要な週のみ利用が可能です。また、ネット注文だけでなく、注文用紙や電話でも注文することができ、店舗によってはスマホアプリにも対応しています。
Sony「Playstation Plus」
「Playstation Plus」は、Playstation ユーザー向けの有料会員サービスで、ゲームコンテンツや機能のほか、会員限定のサービスを幅広く提供しています。
Canon
プリンターに使用するインクジェットの交換サービスもリカーリングの代表格です。Canon の場合、このようにプリンターに紐づくインクジェットなどの消耗品や製品の品質管理、メンテナンスサービスにおいて安定的な収益を生み出しています。
Amazon Prime
Amazon Prime では、定額年会費を支払って有料会員になると、商品の注文時に送料無料やお急ぎ便などさまざまな会員限定の特典を受けることができます。
リカーリングビジネスで収益アップを目指すために
以上、本記事ではリカーリングビジネスの基礎知識として、メリット・デメリット、注意点などを解説しました。
「繰り返す」を意味するリカーリングとは、繰り返し収益を得るビジネスモデルです。これまでの 1 度限りの売り切り型ビジネスモデルから、今後は利便性に優れたリカーリングビジネスがより多くの業種において一般化されていくと予想されています。
また、質の高いサービスを提供するには、商品の品質だけでなく、さまざまな視点から顧客満足度の向上を心がけることも大切です。顧客にとって満足のいく便利なサービスを提供することができれば、収益の増加にもつながります。そのためには、顧客がスムーズに決済を行うためのシステムを導入したり、売上にかかる会計業務などのバックオフィスの最適化を図ることも一案です。
Stripe が提供する Stripe Billing では、サブスク、リカーリングを始めとする継続的な決済処理に対応し、顧客への定期的な請求や決済手段の提供、入金管理システムなどのさまざまな機能を利用することができます。さらに、各事業内容のニーズに合ったサービスをデザインできるほか、定期的・継続的な決済に関わるあらゆる管理業務の最適化と、カスタマーサクセスの実現を図ることができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。