BECS (Bulk Electronic Clearing System) ダイレクトデビットは、継続支払いによく使われるオーストラリアの銀行振込システムです。企業はこのシステムを利用して、顧客の銀行口座から承認された支払いを直接徴収できます。BECS は 1989 年の運用開始以来、定期的な請求、サブスクリプション、メンバーシップを管理するための代表的な方法となっています。オーストラリアでは、このシステムが経済活動の重要な位置を占めています。毎年平均 15 兆オーストラリアドルの決済が行われており、これは直接送金による消費者決済の大半を占めています。
ここでは、企業が BECS ダイレクトデビットについて理解しておくべきことを取り上げます。BECS 口座振替の仕組み、利用顧客セグメント、広く利用されている理由、このシステムを支払い方法として採用するために必要な手順、などについて説明します。
この記事の内容
- BECS ダイレクトデビットが利用されている地域
- BECS ダイレクトデビットの利用者
- BECS ダイレクトデビットの仕組み
- BECS ダイレクトデビットを受け付けるメリット
- BECS ダイレクトデビットを支払い方法として導入
- BECS ダイレクトデビットの代替手段
BECS ダイレクトデビットが利用されている地域
成長要因
デジタルシフト: 2021 年の時点で、80% を上回るオーストラリア市民が、口座残高の確認、請求書の支払い、送金について、オンラインでの処理を好むと答えています。オンライン決済の普及率が高いことも、BECS が広く受け入れられている一因となっています。顧客はオンラインポータルや銀行のアプリを通じて、簡単に処理の委任を設定し管理できるからです。2007 年、オーストラリアでは対面支払いの 70% が現金で行われていましたが、その割合は 2022 年末までにわずか 16% まで低下しました。BECS は、現金や小切手の必要性が少なくなるため、このトレンドに対応していると言えます。
サブスクリプションのブーム: ストリーミングプラットフォーム、ミールキット、SaaS (Software-as-a-Service) 製品などでのサブスクリプションサービスの台頭は、BECS が提供するような、自動化された決済に対する需要を促進しています。
利便性とセットアップの容易さ: Stripe で継続支払いの処理を委任するための BECS の設定は、シンプルかつ簡単であり、顧客は手動で支払いを開始する手間を省くことができます。
統制と柔軟性
透明性と可視性: 利用者はウェブバンキングや銀行アプリを通じて BECS の決済を追跡でき、詳細な取引履歴にアクセスできます。この透明性により信頼感が醸成され、情報に基づいた意思決定を後押しできます。
個人金融のトレンド: BECS では、ユーザーが継続支払いを効果的に管理するために必要なツールと情報が提供されます。
規制環境
消費者保護
オーストラリア決済ネットワーク (APN) の規則: BECS の業務を規定するこれらの基準により、消費者保護、セキュリティ、不審請求の申請の解決に関する制限ルールが定められており、プロセスの公正性と透明性が保証されています。
競争および消費者法 2010 (CCA): オーストラリア競争・消費者委員会 (ACCC) が施行するこの消費者保護に関する法律は、不公正な慣行を禁止し、顧客が自らの権利と義務について明確かつ正確な情報を入手できなければならないと定めています。
決済システム規制
決済システム (規制) 法 (1998): この規則により、オーストラリアにおける決済システム規制の枠組みが確立されました。この法律により、BECS は、公共の利益のため、安全かつ効率的、そして透明性を持って運営することが義務付けられています。
反マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策 (AML および CTF) 法制: この法律は、マネーロンダリングとテロ資金供与の撲滅を目指しています。BECS では、金融システムの完全性を守るため、これらの法的要件を遵守しています。
BECS ダイレクトデビットの利用者
BECS ダイレクトデビットは、金融取引の自動化、合理化、安全性の確保に関する汎用的かつユーザー中心のアプローチにより、オーストラリアの多くの企業や個人から幅広い支持を集めています。ここでは、このシステムの利用者層とその詳細をご紹介します。
ビジネスユーザーと業種
公益事業: オーストラリアのガス、水道、電力会社は、BECS による支払いに大きく依存しています。このシステムでは、請求書による適切なタイミングでの徴収をスムーズに実行するため、処理経費を削減できます。
通信: BECS による支払いは、請求書による徴収を毎月実行する、電話会社やインターネット / ケーブルサービスのプロバイダーに最適です。BECS により適切なタイミングでの支払いが行われるため、管理業務を合理化し、顧客離れを最小限に抑えることができます。
金融サービス: 銀行や金融機関はローン返済や住宅ローンに BECS を活用しています。システムの効率性と固定支払い管理の正確性は、注目すべきメリットです。
保険会社: オーストラリアの保険会社は、保険金の支払いに BECS 決済の利便性を活用しています。
サブスクリプションサービス: ストリーミングプラットフォーム、SaaS プロバイダー、オンライン出版の分野でも、サブスクリプション利用者から手数料を徴収するために BECS が使用されています。
慈善団体: BECS により定期的な寄付をシンプルに実行できるようになるため、団体に対する継続的な支援が促進されます。BECS は設定や管理が簡単であるため、資金調達に効果的なツールとなっています。
政府機関: 地方自治体や国の機関は、徴税や手数料、給付金の支払いに BECS を利用しています。その効率性と透明性は、公共部門の財政管理に理想的です。
小売業と E コマース: BECS は小売業における 1 回限りの取引にはあまり使われませんが、定期配送やサブスクリプションモデルには適合します。
企業間 (B2B) 取引: BECS の合理化されたアプローチにより、サービスやサプライに関して企業間で発生する定期的な支払いをサポートできます。これらの口座引き落としの支払いにより、管理業務の負担を最小限に抑え、キャッシュフローを改善することができます。
顧客セグメント
- 予算を意識する個人: 予算を意識するオーストラリアの利用者は、財務計画とコスト管理に重きを置く傾向があり、このニーズは BECS が提供する予測可能性とマッチしています。2022 年に実施された調査によれば、オーストラリア市民の 4 分の 1 以上 (27%) が、支払い手数料を節約するため、定期的な支払いに口座引き落としを設定する予定があると答えました。
特殊なユースケース
サブスクリプションサービス: 多くのオーストラリア市民が、ジムの会費、ストリーミングサービス、その他の継続支払いに BECS を利用しています。これは企業の顧客維持率の向上に貢献します。
公共料金の支払い: オーストラリアの一般家庭では、BECS によって公共料金の支払いを自動化することが多いようです。これには、延滞料金を回避し、請求書管理を簡素化する効果があります。
BECS ダイレクトデビットの仕組み
BECS ダイレクトデビットにより、企業や顧客の支払いプロセスを簡素化することができます。その仕組みは次のとおりです。
利用者の場合
- 処理委任の設定: 顧客は、決済時に、または個別の契約を通じて、希望する支払い方法として BECS ダイレクトデビットを選択します。この際、銀行口座の詳細が記載され、あらかじめ決められた間隔で特定の金額を引き落とすことを事業者に許可する、口座引き落としリクエスト (DDR) と呼ばれる承認書が銀行に提出されます。
決済処理
問題がなければ、資金は顧客の口座から事業者の口座に送金されます。
顧客は支払いが完了した旨の通知を受け取ります。通常、この通知はオンラインバンキングポータルやモバイルアプリを通じて送信されます。
処理委任の管理
顧客は以下の機能を使用して BECS を完全に管理できます。
キャンセル: 今後の支払いを完全に停止します。
不審請求の申請: 不正または誤った取引について、銀行または事業者に異議を申し立てます。
事業者の場合
BECS 決済のセットアップ: 事業者は銀行または決済サービスプロバイダー (PSP) と提携することによって BECS を自社の決済システムに導入します。契約に基づいて、各顧客の支払いスケジュールと金額を定義します。
口座引き落とし決済の開始: 事業者は、口座引き落としの開始支払い期日に、DDI をペイメントプロバイダーに送信します。これらの DDI には、顧客、支払い額、銀行口座情報、参照番号に関する情報が含まれています。
自動支払い回収と照合: ペイメントプロバイダーは DDI を処理し、顧客から企業へのスムーズな資金移動を進めます。事業者は、照合目的のために自動化された通知と取引記録を受け取ります。
不審請求の申請の処理: 事業者は、不正または誤った BECS の支払いに関して顧客が提起した不審請求の申請を解決する責任を負います。事業者は、顧客および銀行と協力し、合意した期間内に解決を図らなければなりません。
BECS ダイレクトデビットを受け入れるメリット
事業者が、支払い方法として BECS ダイレクトデビットを受け入れることには、以下のような多くのメリットがあります。
効率化とコスト削減
管理負担の軽減: BECS では、手作業による請求書発行が減り、支払いを追跡する必要がなくなります。これにより時間とリソースを節約できます。
低額な取引手数料: BECS の手数料は、クレジットカードに比べ、大幅に低く抑えられています。
売上処理時間の短縮: 一般的なクレジットカード決済では、資金がビジネス口座に入金されるまで 5 日から 7 日を要するのに対し、BECS では、2 営業日以内に処理されます。
キャッシュフローと予測可能性の改善
支払い遅延の減少: 口座引き落としは一般に、承認された取引に関する極めて高い成功率を誇っており、従来の方法と比べて支払い遅延を大幅に削減できます。
予測可能な収益の流れ: 定期的な BECS 決済により、企業に対し信頼性の高い収入予測とキャッシュフロー管理を提供できます。
予算編成と財務計画の改善: 予測可能な定期収入により、事業者は経費の処理や投資をより効果的に計画できるようになります。
顧客体験と顧客維持率の向上
顧客の利便性: BECS により、顧客が請求書の支払いを自動的に行う便利な方法を提供できます。これには、全体的な顧客満足度を向上させる効果があります。
解約率の低下: 自動支払いにより、支払い漏れや有効期限切れクレジットカードに起因する顧客の解約が減少するため、顧客維持率の向上につながります。
サブスクリプションの拡大: BECS により、継続支払いを簡単に設定および利用できるようになり、ビジネスにおけるサブスクリプションのボリュームを増大させることができます。
BECS ダイレクトデビットを支払い方法として導入
BECS の導入には、オーストラリア企業と非オーストラリア企業の双方に個別の要件があります。Stripe では、オーストラリア以外の企業が BECS を導入するためのサポートを提供しています。ここでは、BECS 決済の導入に必要な要件を扱います。
オーストラリアに拠点を置く企業の場合
ビジネスの登録: ビジネスの登録を行い、オーストラリアのビジネス番号 (ABN) を取得する必要があります。
現地の銀行口座: BECS の支払いを受け付けるために、有効なオーストラリアの銀行口座が必要です。
BECS サービスプロバイダー: 企業は、クリアリングと売上処理の技術的側面を処理する BECS サービスプロバイダーと提携する必要があります。
DDR サービス契約: BECS を利用する事業者と BECS サービスプロバイダーは、口座引き落としの処理に関する条件をまとめた DDR 利用規約に署名する必要があります。
規制順守: 関連する AusPayNet BECS ルールと規則を順守する必要があります。
オーストラリア以外の国に拠点を置く企業の場合
オーストラリアにおけるパートナーシップ: 子会社や信頼できるパートナーなどのオーストラリアの法人と提携し、BECS の受取人および入金用銀行口座の名義人とする必要があります。
Stripe BECS ダイレクトデビットの導入: Stripe の BECS ダイレクトデビット機能を利用して、オーストラリアの顧客からの BECS 決済を開始できます。以下を用意する必要があります。
- BECS Direct Debit ケイパビリティが付与された Stripe アカウント
- 決済手段タイプとして
au_becs_debit
が設定された決済 AUD
に設定されたcurrency
- BECS Direct Debit ケイパビリティが付与された Stripe アカウント
BECS 受け入れの手順
BECS とシステムを連携させる: BECS の決済を受け入れることができるよう、ソフトウェアまたは支払いゲートウェイを設定します。Stripe は、ビジネスクライアントに対するシームレスな連携を提供しています。
支払いオプションとして BECS を提供する: 決済の際に、他の支払い方法とともに BECS を利用できるようにします。
顧客が支払いを承認する: 顧客が銀行口座の詳細を提供し、ダイレクトデビットリクエストを受け入れて、支払いを承認します。
支払い処理: BECS サービスプロバイダーは、ネットワークを通じて顧客の銀行に支払いリクエストを提出します。
売上処理: 資金が口座に振り込まれます。
その他の考慮事項
手数料: BECS サービスプロバイダーは通常、口座引き落としの処理に手数料を請求します。
最低支払い額: 一部の BECS サービスプロバイダーは、最低支払い額を定めています。
不審請求の申請の解決: 支払いに問題が生じた場合の不審請求の申請を解決するプロセスを理解します。
BECS ダイレクトデビットの代替手段
BECS ダイレクトデビットは、オーストラリアで広く利用されていますが、企業や顧客にとって同様の機能を果たす他のオプションもあります。
事業者の場合
BPAY: 顧客は、広く利用されているこの請求書支払いシステムを利用して、銀行口座から直接電子的に請求書に対する支払いを実行できます。企業は BPAY と請求書発行システムを連携させ、支払いを直接受け取ることができます。
PayTo: PayTo を使用すると、オーストラリアの顧客はモバイルバンキングアプリを使用して契約を認証して承認し、支払いをほぼすぐに売上として処理できます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。