クレジットカード決済は、日本で最も普及している決済手段です。特に EC サイトでの利用率は全体の約 8 割と圧倒的なシェアを占めており、そのニーズの大きさがうかがえます。
利用者のさらなる増加が見込まれるクレジットカード決済ですが、その一方で不正利用被害も深刻化しています。そのため、クレジットカード決済の安全性に対して不安を抱く消費者も少なくありません。
不正の手口が巧妙化し、従来のシステムでは検知が困難になる中、高度な機械学習機能を備えた AI (人工知能) システムを用いた対策が注目を集めています。
本記事では、クレジットカードの不正利用対策において AI が注目されている理由や、不正検知 AI の仕組み、導入メリット、注意点について解説します。
この記事でわかること
- 年々複雑化するクレジットカードの不正利用への対策が困難を極める中、AI を活用した不正検知システムがこれまで以上に注目されている
- AI による不正検知は、取引パターンの自動学習と、不正リスクのスコア化によって行われる
- 不正検知 AI のメリットには、リアルタイムで瞬時に不正を検知できることなどが挙げられる
- 自社 EC サイトの安全性を強化するには、AI 技術に 100% 頼るのではなく、セキュリティに関する社員研修を実施し、社内体制を万全に整えることが大切
- Stripe Radar なら日々変化する不正パターンの機械学習により、高度なセキュリティ対策の実現が可能
クレジットカードの不正利用検出に AI が重要である理由
日本では、カード決済、QR コード決済、銀行振込など、多くのキャッシュレス決済オプションを利用できます。これらのオプションの中で、カード決済は非常に汎用性が高く、非常に人気があります。
世界中でクレジットカードの不正利用が増加し続ける中、日本政府は 3D セキュア 2.0 の義務化など、さまざまなガイドラインを策定しています。AI を強化した不正利用検出システムの導入も検討されている対策の 1 つです。以下に、それらに対する関心が高まっている主な理由の概要を示します。
日本におけるクレジットカードの不正利用
日本クレジット協会 (JCA) によると、2025 年のクレジットカードの不正利用による経済的損失の合計は 510 億円を超えました。これは 2020 年の 253 億円の 2 倍以上でした。この状況に対処するには、AI を使用した高精度の不正利用検出システムを導入することが重要です。
このデータで最も注目すべき発見は、2025 年 10 月から 12 月の期間の損失総額が 93 億 9,000 万円に達したことです。これは、前年同期の 162 億 3,000 万円と比較して大幅な減少です。
この違いは、2025 年 3 月末に予定されていた 3D セキュア 2.0 の導入義務化によって生じた相乗効果によるものと考えられます。これを不正利用検出のための AI の普及と組み合わせると、これらの取り組みの結果をデータで確認できます。
AI を使用したクレジットカードの不正利用
第三者による不正利用の手口は、AI の悪用によりますます複雑化、巧妙化しています。そのため、従来のルールベースのシステムだけではセキュリティを確保することが困難になっています。
たとえば、フィッシングは AI を使用した不正利用の手口の 1 つです。不正行為者は AI を使用して大量の偽メールを生成します。次に、そのメールを使用して受取人を偽のウェブサイトに誘導し、アカウントのパスワードとクレジットカード情報を盗み出します。
フィッシングでは、不正行為者は実在の組織名と公式ロゴを使用して、受取人にメールが正当なものであると信じ込ませます。彼らは自然言語で書かれた大量の偽メールを即座に生成して送信します。そのため、従来のシステムでこれらの詐欺を正確に特定することは非常に困難です。
AI を使用して不正行為を行う手口に対抗するには、AI による不正利用検出を使用することが重要です。AI テクノロジーは、絶え間なく変化する不正利用パターンをリアルタイムで学習し、即座に適応できます。
カード会員数の増加
カード決済は、日本の日常生活に欠かせないものとなっています。クレジットカードを使用すると、顧客はポイントやマイルを獲得できます。また、分割払い、リボルビング払い、ボーナス一括払いなどの支払い方法も提供されています。さらに、クレジットカードは利便性が高いため人気が高まっています。
ただし、オンラインでのカード取引の頻度が増加するにつれて、その情報が漏洩するリスクも高まります。情報が漏洩すると、無数の e コマースサイトなどで連鎖的に悪用されるリスクがあります。
AI を使用したクレジットカードの不正利用検出は、e コマース企業の間で大きな関心を集めています。リアルタイムで異常を検出できる防御策であるため、構造上の理由から防ぐのが難しい手口からも防御できます。
AI を活用したクレジットカード不正検知の仕組み
ここでは具体的な仕組みについて 1 つひとつ見ていきましょう。
パターン学習
不正検知 AI は、機械学習を用いて膨大な決済データを分析し、不正パターンを自動学習することで、取引を迅速かつ高精度に識別します。また、最新の不正パターンにも適応し、従来のルールベースでは見逃されがちな新たな手口でも検知することが可能です。
学習に用いられる主なデータには以下のような項目が挙げられ、これらを多角的に分析することで不正手口を突き止めます。
- 取引金額
- 取引日時
- 取引場所 (国、地域など)
- 利用端末
- 加盟店情報
- 過去の閲覧・購買行動履歴など
不正検知 AI は、これらのデータを基に「いつもと違う」、「何かがおかしい」という異常を検知する AI モデルを構築します。
たとえば、日中の少額決済のみに使われているクレジットカードが、高額商品を販売する海外サイトで深夜に使用された場合、AI は瞬時にこれを異常なパターンと認識します。
さらに、識別結果のフィードバックに基づく精度強化が可能なほか、日々巧妙化する不正利用を通じて継続的に訓練を積み重ねるため、検知の性能をさらに高めることができます。
不正リスクのスコアリング
不正検知 AI は、取引のパターンをあらゆる角度からリアルタイムで監視し、パターンに基づいた各取引の評価 (スコアリング) を実行します。つまり、決済が行われるたびに AI が取引金額や取引場所などの多様なデータを自動分析し、不正リスクを数値化する仕組みです。
このスコアが基準値を超えると、AI は不正リスクが高いと判断し、取引の自動ブロック、または追加認証を要求します。
業界横断によるデータ学習 (マルチテナント型 AI)
従来の AI 技術は、クレジットカード会社が個別に保有する取引データのみで学習していたため、自社で遭遇したことのない不正利用への対処が困難な点が深刻な課題でした。近年ではこの課題を乗り越えるべく、取引データを業界横断によって共同で学習する「マルチテナント型 AI」が注目されています。
この仕組みでは、マルチテナント型 AI を採用する企業同士で不正データを共有し、共同で AI をトレーニングします。たとえばマルチテナント型 AI なら、ある会社で最新の不正パターンが検知された場合、そのパターンを自動学習した AI モデルを他の企業もすぐに活用できます。
このように、業界全体が一丸となり情報を共有することで、自社単体では見抜けなかった複雑な不正手口にも対抗できる体制が構築されています。
不正検知 AI のメリット
不正検知 AI には以下のような導入メリットがあります。
不正を瞬時にブロック
不正検知 AI を導入する最大のメリットは、高度な AI 技術により不正取引をリアルタイムで検知し、瞬時に自動ブロックできる点です。これにより、取引が成立する前に不正を食い止めることが可能になります。
このようなリアルタイム性の高い AI による瞬時ブロック機能は、顧客を保護することに加え、チャージバックによる利益損失を最小限に抑えるうえでも非常に重要です。
業務負担の軽減
システムの自動化によって監視・検知業務の負担を大幅に軽減できます。従来はオペレーターが膨大な取引データを監視し不正を突き止める作業を行っていたため、見逃しが頻繁に生じていたほか、担当者への過度な業務負担がボトルネックとなっていました。
不正検知 AI なら、24 時間 365 日稼働し続けることができ、すべての取引をリアルタイムで監視します。また、不正リスクの高い取引がスコアリングで検出されると、瞬時にアラートで通知します。そのため、オペレーターはこれまでのように正常な取引を含むあらゆる取引を確認する必要がなくなり、AI だけでは判断が難しいケースの検証や、質の高い顧客対応にリソースを割り当てられるようになります。
また、機械学習によって判定精度を継続的に向上できる不正検知 AI なら、正常な取引を不正と誤検出するフォールスポジティブの削減にもつながります。これにより、人による追加確認の業務負担やコスト負担を減らせるだけでなく、正規の顧客を巻き込むこともなくなるため、売上機会の損失を防げます。
信頼性の向上による顧客維持
不正検知 AI によるセキュリティ対策は、顧客の安全を確保するだけでなく、企業の信頼性を高め、ブランディングをより一層強化します。
顧客が安心してクレジットカードを使える決済環境を提供することは、決済時における顧客の不安やストレスを軽減し、快適な購買体験を保証できるため、顧客維持に直結します。
不正検知 AI の課題
AI を活用した不正検知システムには以下のような課題もあるため、導入に際しては注意が必要です。
誤検知による機会損失
高精度な不正検知 AI でも、正常な取引を不正と誤検知するケースはゼロではありません。そのため、もし優良顧客の決済が不正と判断された場合、顧客の購入意欲が削がれ、販売機会の損失を招いてしまいます。
不正検知 AI を導入する際は、検知レベルを厳格にしすぎることのないよう設定に注意し、システムの精度検証を定期的に行うことが大切です。
不正を 100% 防御することは困難
不正検知 AI は EC サイトの安全性強化において期待されてはいるものの、すべての不正利用を完璧に防げるわけではなく、日々進化し続ける巧妙な不正手口に対し、対処しきれないケースがあることも理解しておく必要があります。
したがって、AI システムだけに頼るのではなく 3D セキュア 2.0 などのセキュリティ対策を併用するとともに、社員教育にも注力し、責任者が最終的な判断を下せる体制を構築しておくことが、安全なサイト運営において不可欠です。
判断根拠が不明瞭
AI が不正を検知したとしても、その判断根拠が不明瞭で担当者ですら説明ができない「AI のブラックボックス化」も、不正検知 AI における課題の 1 つです。優良顧客に「なぜ決済が不正とみなされたのか」、その理由を担当者が明確に説明できなければ、顧客満足度が低下する恐れがあります。
近年ではこの課題について、判断根拠を可視化する「Explainable AI (XAI) 」、つまり根拠の説明を可能にする AI 技術が世界的に注目されています。Explainable AI は日本語で「説明可能な AI」と訳されます。
EU では、AI 規制法に基づいて AI の判断根拠の説明責任が法的に求められているなど、AI に特化した法的基準を設ける動きが広がりつつあります。日本でも将来的に同様の規制が導入され、これにともない XAI が普及していくことが予想されます。
そのため、不正検知 AI を選ぶ際は、「なぜその判断に至ったのか」を人が納得できるよう論理的に説明できる機能があるかどうかも、重要な選定基準となります。
よくある質問 (FAQ)
ここでは、クレジットカード不正利用検知 AI について多く寄せられる疑問点を FAQ 形式で解説します。
Stripe Radar でできること
Stripe Radar は不正利用対策のためのツールです。Stripe のグローバルネットワークから得たデータを活用して訓練された AI モデルを使い、不正利用を検知・防止します。最新の不正傾向に応じてモデルを常に更新し、ビジネスを守ります。
Stripe はこのほか、Radar for Teams も提供しています。ユーザーは自社ビジネス特有の不正シナリオに対応するカスタムルールを追加でき、高度な不正分析情報にアクセスできます。
Radar の特徴
不正利用による損失の防止: Stripe は年間 1 兆ドル以上の決済額を処理しています。この規模でも、Radar は不正利用を正確に検知・防止し、コスト削減に貢献します。
売上の向上: Radar の AI モデルは、実際の不審請求データ、顧客情報、閲覧データなどに基づいて学習され、リスクの高い取引を特定し、誤検知を減らし、売上を増加させます。
業務効率化: Radar は Stripe に組み込まれており、設定のためのコーディングは一切不要です。単一のプラットフォームで不正利用の動きを監視したり、ルールを作成したりすることができるため、業務効率も向上します。
Stripe Radar について詳しくはこちらをご覧ください。今すぐ開始する場合はこちら。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。