チェンジマネジメントとは、業務方法の移行を通して、個人、チーム、または組織を導くプロセスのことをいいます。チェンジマネジメントを導入することで、新しいシステム、戦術、構造を採用する際の混乱を最小限に抑えながら、新しい目標に向けて全員の足並みを揃えられるようになります。すなわち、企業の従業員は変化を理解し、慣れ親しむようになり、ひいては日常業務の円滑化へとつながります。
組織変革を支持する従業員の割合は、2016 年が 74% であったのに対し、2022 年には 38% まで減少しました。チェンジマネジメントの取り組みは、このような変化への抵抗感を解消し、企業が生産性を失うことなく新たな取り組みに適応することを可能にします。以下では、チェンジマネジメントが重要な理由、企業で利用されているさまざまなチェンジマネジメントモデル、会社に適したチェンジマネジメント計画の立て方について解説します。
本記事の内容
- チェンジマネジメントが重要な理由
- チェンジマネジメントモデルの種類
- チェンジマネジメント計画の立て方
チェンジマネジメントが重要な理由
会社を経営していると、新しいソフトウェアの導入、チームの再編成、別の市場への参入など、あらゆる変化が従業員の働き方に影響を与えます。人はみな、自分のルーチンに慣れ親しんでおり、ひとたびその習慣が乱れると、不安に駆られ、生産性が低下し、混乱や反発を招いたりします。チェンジマネジメントは、従業員がこうした否定的な反応を克服しながら、新しいシステムや戦術を受け入れ、正常に業務を進めていくことを促します。
チェンジマネジメント戦略の趣旨は、移行に備えてチームを指導し、移行を成功に導くことにあります。このプロセスには、変革の背後にある理由を伝え、チームが変革に対処できるようにトレーニングを実施し、全体を通してリーダーシップが目に見える形で支援されるようにすることも含まれます。チェンジマネジメントでは、不確実性を減らし、懸念事項に対処し、全員の足並みを揃えて移行を可能な限り成功させることを目指します。
またチェンジマネジメントは、リスクマネジメント手段でもあります。変革によって生じる従業員への感情的および風土的影響を調整しつつ、プロジェクトの遅延、コスト超過、人材流出といったリスクを最小限に抑えることができます。変革は、混乱の元ではなく成長の機会と見なすべきであり、業務を改善し、機動力を保ち、従業員のエンゲージメントを維持することに貢献します。そしてチェンジマネジメントは、企業が新しいイニシアチブを導入する際に、この理想的なエクスペリエンスの創出を後押しします。
チェンジマネジメントモデルの種類
チェンジマネジメントモデルが異なれば、抵抗を予測し、混乱を鎮め、変更プロセス全体を通じて従業員のサポートと関与を維持するためのアプローチも異なります。各モデルにはそれぞれ長所がありますが、会社がコントロールしようとしている変革の性質によって最適解は異なります。この項目では、企業でよく利用されているモデルをいくつかご紹介します。
コッターの 8 段階変革モデル
ジョン・コッターのモデルは、危機感を醸成し、変革の機運を高めることをテーマとしています。このモデルは、特に大規模な組織改革を行う場合に有効とされていますが、イニシアチブに対するエネルギーを生み出し、維持することを求められます。以下、その 8 つのステップをご紹介します。
危機感の醸成:なぜ変革が必要なのかを全員に理解してもらいます。
指導者チームの結成:変革を推進するリーダーチームを編成します。
変革のビジョンの形成:明確で説得力のある方向性を打ち出します。
ボランティアの募集:ビジョンを一緒に追求する個人を引き入れます。
障害の排除:進捗を遅らせる障壁に対処します。
短期的な成果の創出:細かく成果目標を立て、勢いを維持します。
勢いの維持:早い段階での成功を土台に、継続的な前進を図ります。
変化の定着:変化そのものを企業文化に取り入れ、新しいアプローチを経営慣行で補強することで、会社に変化を定着させます。
ADKAR モデル
ADKAR モデルは、チェンジマネジメント資格認定プログラムである Prosci によって開発されました。このモデルは、移行期における個人の行動に焦点を当てており、マネージャーがあらゆる反発に直接対処し、従業員が変化を乗り越えていけるサポートします。ADKAR モデルは次の 5 つの要素で構成されます。
認知:従業員に変革の必要性を知ってもらいます。
欲求:変革に参加する意欲を育みます。
知識:必要な情報とトレーニングを提供します。
能力:従業員の持つ役割が変革に馴染めるようにします。
定着:成果を祝い、新しい慣行を定着させることで、変革を維持します。
レヴィンのチェンジマネジメントモデル
クルト・レヴィンのモデルは仕組みがわかりやすく、明確で定義された変革を望む組織に適しています。変化がほぼ直線的に起こることを前提としているため、流動的で継続的な変革には適さないかもしれません。このモデルは、変革のプロセスを 3 つの段階に分けています。
解凍:現状を変える必要性を提示します。
変革:変革の対象がシステム、プロセス、行動のいずれであれ実行します。
再凍結:変化を確固たるものにし、企業文化に定着させます。
7-S フレームワーク
7-S フレームワークでは、連携の取れていない領域を特定し、修正すべき箇所を決定した上で必要な変化を加えます。このモデルは、組織の複数の側面を同時に変化させる必要がある、より複雑な変革に最適です。このモデルでは組織内の 7 つの要素を取り上げ、それらが相互に関連していること、つまり、ある分野における変化が他の分野に影響を与えることに着目しています。7-S フレームワークの焦点となる要素は以下のとおりです。
戦略:会社の事業計画
構造:会社の仕組み
システム:会社のビジネスおよび技術インフラ
共有価値:会社の使命と価値
スキル:従業員の能力
スタイル:経営幹部のマネジメントスタイル
スタッフ:会社の採用・研修制度
ブリッジスのトランジションモデル
ウィリアム・ブリッジスのトランジションモデルでは、変化に垣間見える情緒的・人間的側面に焦点が当てられています。また、変革のことを、古いやり方から新しいやり方に移行するプロセスであると強調しています。このモデルは、情緒的または文化的な変化を大きく伴う変革の取り組みに特に有効です。モデルのプロセスは次の 3 つの段階に分けられます。
終焉:古いやり方を捨て去ることの不安
中立圏:古いやり方と新しいやり方の狭間で戸惑う不安定な段階
始まり:新しい方向性を受け入れ、変化を確固たるものにする
キューブラー=ロスの変化曲線
エリザベス・キューブラー=ロスの提唱した悲嘆のプロセス理論を援用したキューブラー=ロスの変化曲線は、人が変化の過程で経験する感情の流れを意識したモデルです。このモデルを参考にすることで、変化に対する感情的な反応を理解し、リーダーがその感情に共感を持って対処できるようになります。変化曲線は以下の過程をたどります。
ショック:従業員は変化が起こっていることを信じようとしません。
拒否:従業員は変化が起こっていないふりをします。
怒り:従業員は移行の影響を感じて不満を露わにします。
交渉:従業員は現状を維持するために交渉を試みます。
意気消沈:従業員は変化の現実を目の当たりにし、士気や生産性が落ち込む時期を経験します。
受容:従業員は変化に適応し、受け入れ始めます。
問題解決:従業員は変化をうまく機能させる方法を見出します。
チェンジマネジメント計画の立て方
チェンジマネジメント計画を構築する前にまず、どのような変革を行うかを正確に特定し、変革によって生じる抵抗を予測するとともに、変化が発生したときに組織を最適にサポートする方法を戦略化しておく必要があります。力強いチェンジマネジメント計画は、ロードマップとして機能し、現実の状況が変化したときに調整できる柔軟性を備えています。持続可能で、混乱を最小限に抑え、長期的な成果をもたらす計画を作るには、技術的なロールアウトと、変革によってユーザーが受ける影響を考慮する必要があります。この項目では、そのプロセスのステップバイステップガイドをご紹介します。
変更点の特定
何が変更されるのか、なぜ変更されるのかを正確に把握します。新しい技術の導入、役割の転換、コアプロセスの調整などは変革に含むか?何を達成するための変革 (効率化、連携改善、コスト削減) なのか?そして変革が長期的な目標をどのように支えるのか、あるいは組織の競争にどのように役立つのか?これらの成果を全体像に結びつけられるように、その準備をしておきましょう。
利害関係者の把握
変革が誰に影響を与えるかを想定します。この想定範囲には、現場担当者から中間管理職まで、組織に携わるすべての人員を含めます。計画に賛同し変革を推進してくれる人物、または変革に反発する人物を割り出し、さらに時間をかけて懸念を払拭していく必要があります。
出発点の見極め
従業員が変化に対してどの程度準備ができているのか把握します。主要チームに話を聞き、過去の変革の取り組みを調べ、根本的な問題を洗い出します。たとえば、新しいソフトウェアを導入する場合は、従業員がそのソフトを使用するためのデジタルスキルを持っているかどうか、または習得に時間がかかるかどうかを検討する必要があります。
組織に適したコミュニケーション戦略の構築
チームに伝える内容と、それをいつ、どのように伝えるかを正確に計画します。必要とされるメッセージは、グループごとで異なります。経営幹部にはハイレベルなビジョンを伝える必要がある一方で、組織の他のメンバーには、変革によって日常業務にどのような影響が生じるかを知ってもらう必要があります。変化が大きい場合は、メールの一斉送信で伝えるのではなく、リーダーやマネージャーを通じて情報を直接伝えるようにしてください。コミュニケーションは、会話中心で、人間味あふれ、誠実なものであることが大切です。
トレーニングプログラムの作成
従業員にとってどのような学習方法がベストなのか、また、長期的にその学習方法を支援するにはどうすればよいのかを考えます。新しいプロセスやツールを最初にテストする実践的なパイロットグループを用意してみるのもいいかもしれません。ピアツーピア学習の機会を設け、従業員がチュートリアルや Q&A セッションなどのリソースにアクセスできるようにしつつ、トレーニングのペースを徐々に速めて吸収を促進します。複雑な変化に対処するにはフォローアップを計画する必要がありますが、1 回きりのアプローチでは効果が不十分です。
サポートネットワークの構築
いったん状況が変わり始めると、人は継続的な支援を必要とします。ヘルプデスク、Slack チャンネル、対面型の「オフィスアワー」など、ユーザーが質問できる専用サポートシステムの導入は、このニーズの解決策です。この場合でも、マネージャーは積極的にチームの状況を確認する必要があります。ピアサポートも同様に問題解決に役立ちます。アーリーアダプターがいる場合は、そのアーリーアダプターを参考にして他のユーザーを手引きします。
抵抗の先読み
企画段階では、失業への恐れ、仕事量の増加、または単に変化に対する自然な嫌悪感など、抵抗を最も招くであろう要因やその理由を見極めます。これらの問題を特定したら、追加のトレーニング、チームリーダーとの 1on1 ミーティング、データやパイロットプログラムの結果を用いた具体的なメリットの説明など、戦略の細部を詰めます。また、アンケートや非公式のフィードバックも活用して、状況が悪化する前に問題を特定します。
小さな成功の称賛
早い段階で進歩を実証し、勢いの維持に役立つクイックウィンを特定します。これは、特定の部門が新しいソフトウェアのロールアウトを成功させた場合でも、プロジェクトのマイルストーンを達成した場合でも構いません。これらの成功はポジティブな反応を生み出し、組織全体の支持を高めるのに役立ちます。社内報、チームミーティングでの挨拶、経営陣からの感謝の言葉などを通じて成功を強調するようにしましょう。
変化の定着
変化そのものを組織の構造に組み込みます。具体的な措置としては、職務内容の更新と業績評価の微調整を実施するとともに、新しい行動を奨励するインセンティブを提供します。措置を行った後も、なぜその変革が重要なのか、どのような変化をもたらしているのかを再認識させるために、最初の実施時と同じくらいにコミュニケーションを取り続けることが重要です。
評価と調整
変革の進捗を経時的に追跡します。従業員は新しいシステムやプロセスを効果的に使用できているか?期待した効果がデータに現れているか?もしそうでない場合は、その理由を突き止め、軌道修正に取り掛かってください。導入率、従業員のフィードバック、財務指標などの主要業績評価指標 (KPI) を活用して、計画内で調整が必要な領域を特定します。場合によっては、サポートを手厚くしたり、追加のトレーニングを実施したり、フィードバックに基づいてプロセスを微調整したりする必要があるかもしれません。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。