個人がスマートフォンを所有することが当たり前となっている今日、日本ではモバイル端末を用いたモバイルコマースの普及が進んでいます。たとえば、アプリゲームを楽しんだり、アプリ経由でのオンラインショッピング、デジタルコンテンツの視聴など、モバイル端末の使用用途は実に多岐に渡ります。
また、これらの音楽や映画、アプリゲームなどのコンテンツにおいて支払いが発生する場合は、アプリ課金によって支払いを行います。アプリ課金には「アプリ内課金」と「アプリ外課金」の 2 種類がありますが、近年は後者のアプリ外課金が注目を集めています。そこで本記事では、日本の事業者が知っておくべきアプリ外課金の基礎知識として、メリットやデメリット、アプリ外課金はアプリ内課金と何が違うのか、なぜアプリ外課金が注目されているのかについて解説します。
目次
- アプリ外課金とは
- アプリ外課金が注目される理由
- アプリ外課金を導入するメリット
- アプリ外課金を導入するデメリット
- アプリ外課金を検討する際の注意点
- アプリ外課金の導入・取り組み事例
- Stripe Checkout でできること
アプリ外課金とは
アプリ外課金とは、アプリの機能やコンテンツなどを購入するときに、アプリ内部ではなくアプリ外部の決済ページにて課金する方式です。ユーザーは外部の Web サイトにて支払いを行えるため、アプリ内では提供されていない決済手段を選ぶことができ、課金に対する柔軟性が高い点が特徴です。
アプリ外課金とアプリ内課金の違い
アプリ内課金は、利用中のアプリ内にて支払いをする課金方式です。つまり、アプリ外課金とアプリ内課金の最大の相違点は「支払いがどこで実行されるか」ということになります。また、もう 1 つの違いはアプリの手数料、すなわち「手数料がかかるか、かからないか」という点です。この手数料発生の有無こそが、次章で解説する「アプリ外課金が注目される理由」で、アプリプラットフォームのあり方そのものに大きな影響を与えています。
アプリ外課金が注目される理由
アプリ内課金の場合、アプリプラットフォームとなる Apple (App Store) や Google (Google Play) に販売額の 15〜30% 相当の決済手数料を支払わなければなりません。この手数料が、アプリ運営事業者側からすると経営面にマイナスの影響を与えかねないため、長い間多くの事業者の懸念材料となっていました。
そんな中、2021 年 8 月に App Store が、2022 年 3 月に Google が、アプリ外課金に関する規制を緩和するはこびとなり、現在は一部のアプリにおけるアプリ外課金が可能となっています。これにより、アプリ運営事業者は、ユーザーをアプリ外部の決済ページへと誘導する仕組みを積極的に採用するようになり、従来のアプリ内課金と比べ、収益の増加も見込めるようになりました。なお、この緩和の範囲は、動画や音楽、電子書籍 (雑誌を含む)、電子新聞などのデジタルコンテンツを提供する「リーダーアプリ」に限られ、ゲームアプリは対象外となっています。
さらに、日本においては 2024 年 6 月に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律 (スマホソフトウェア競争促進法)」、すなわち「スマホ新法」が可決され、スマートフォン分野の競争促進や、特定企業による市場の独占を防止する動きがより一層高まっています。また、これにともない大手ゲームメーカーにおいても、アプリ外課金を導入する動きが見られるようになっています。
このスマホ新法には、以下の点が含まれています。
- アプリ内課金強制の禁止
- アプリ内での外部決済リンク設置に対する制限の禁止
アプリ外課金を導入するメリット
アプリプラットフォームに決済手数料を支払う必要がない
ここまでの解説にてすでにおわかりのとおり、アプリ外課金の最大のメリットは、アプリプラットフォームへの決済手数料がかからないということです。先ほどの解説のように、アプリ内課金で生じる決済手数料は最大で 30% にもなり得るため、事業者側は高額の決済手数料を負担しなければならず、収益の圧迫にもつながりかねません。
一方、アプリ外課金なら、アプリ内課金と同じ価格設定にしても決済手数料がかからない分、収益アップを見込めます。あるいは、アプリ内課金で発生する決済手数料分を価格に上乗せする必要もないため、ユーザーが納得できる価格でサービスを提供することが可能です。
充実した決済手段を提供できる
アプリ内課金の場合、ユーザーはアプリプラットフォームで提供されている決済手段のみ利用することができます。つまり、ユーザーが選べる決済手段は限られるため、UX が低下する可能性があります。また、アプリプラットフォーム側が手配する決済手段に対しては、事業者側で対応することもできません。
しかし、アプリ外課金であれば、事業者はユーザーの決済ニーズに合わせて決済手段を増やすことができ、独自のセールやポイント加算システムを自由に設定できるなど、より柔軟に対応できるため、自社アプリに対する満足度が高くなります。
アプリ外課金を導入するデメリット
決済システムを自社で準備する手間がかかる
アプリ外課金を導入するには、アプリに連携した外部サイト上の決済環境を自社で構築する方法と、決済代行業者を利用する方法があります。
前者の方法でアプリ外課金を導入する場合、事業者側で決済システムを整備する必要があります。これに際しては、初期費用や運用コストがかかるほか、不正アクセスや個人情報の漏えいを防止するための安全対策を万全にするなど、さまざまなプロセスを踏まなければなりません。その結果、アプリ外課金に対応するに際しては社員の業務負担が増大してしまう可能性があります。
事業者がこうした懸念を解消するには、後者のように、決済代行業者を利用して各決済機関との契約や決済システムの整備など、決済に関わる業務を代行してもらうのも対策の 1 つです。決済代行業者なら、自社でゼロから構築作業を行うよりも費用や時間を軽減することができます。
たとえば、Stripe のような決済代行業者の場合、自社システムの開発を行わずに事業スタイルに合った決済環境を構築できるほか、PCI DSS の全要件を満たした高いセキュリティが確立されているため、ユーザー側が安心できる決済体験を提供できるでしょう。
アプリ内で支払いを済ませたいユーザーには向いていない
ユーザーによっては、アプリ内で支払い完了までのすべてを解決したい場合もあります。アプリ外課金では決済を行う際、アプリから外部の Web サイトに遷移するため、これがシームレスな決済手順を好むユーザーからすると煩わしいと感じてしまうことがあります。
ただし、先ほどアプリ外課金のメリットでも解説したように、日頃からよく使うお気に入りの決済手段が提供されていることに価値を見出すユーザーが多くいるのも確かです。したがって、アプリ内課金かアプリ外課金のどちらが向いているかは各ユーザーごとに異なるため、どちらがより優れているか一概にはいえないことを理解しておく必要があるでしょう。
アプリ外課金を検討する際の注意点
費用対効果
アプリ外課金はアプリ内課金と比べると収益性の向上が期待できるということを、先ほど解説しました。しかし、アプリ外課金の導入においては、長期的視点で実際に収益につなげられるかを見極めることが大切です。
したがって、自社サイトで決済環境を整えて運用を行うアプリ外課金か、アプリプラットフォームに決済手数料を支払うアプリ内課金か、どちらが有益かつ自社ビジネスの成長に効果的かを総合的に見ながら判断しましょう。
なお、アプリ外課金の導入に際して決済代行業者に依頼する場合、料金体系について事前にしっかりと確認をとり、予算や見積もりについても相談してみるとよいでしょう。
ユーザビリティ
繰り返しにはなりますが、アプリ外課金とアプリ内課金のどちらがベストかは、ユーザーによって異なります。また、アプリ外課金を導入しても、外部サイト上での使い勝手が不明瞭であれば、従来のアプリ内課金に慣れているユーザーは不便を感じてしまい、顧客の離脱率が上がってしまうリスクがあります。そのため、アプリ外課金においては以下の点について、アプリの外部で決済を行うユーザーへの配慮を心がけましょう。
- アプリから遷移後の外部決済ページが見やすく設計されている
- 本人認証を含む決済完了までの手順が簡易的かつスピーディーである
- クレジットカード決済だけでなく、キャリア決済や QR コード決済のように決済手段が充実している
外部サイトの周知
アプリ外課金を導入する場合、外部サイトに関する周知および集客を計画的に行うことが大切です。なぜなら、外部サイトが十分に認知されていなければ、たとえアプリ外課金を導入しても、ユーザーをサイト側に集めることができず、自社サイトの有用性が生まれないからです。
そのため、自社サイトへの効果的な集客を図るにあたっては、アプリのダウンロード前にユーザーが確認できる概要欄にて、自社サイト上での決済の利便性をアピールしたり、登録済みのメールアドレスに期間限定セールやキャンペーンについて通知してみるなどの対策を講じるとよいでしょう。
アプリ外課金の導入・取り組み事例
コロプラ
オンラインゲームの開発や運営を事業の主軸とする日本の企業、株式会社コロプラでは、アプリプラットフォームではなく、外部サイトからゲーム内のアイテムをよりお得に購入できるアプリ外課金を導入しています。
アプリ外課金が可能なコロプラの主なゲームには『白猫プロジェクト NEW WORLD’S』や『黒猫のウィズ』が挙げられます。購入方法は簡単で、ゲーム内の「ヘルプ」に記載されている「連携コード」をコピーするか、ゲーム内のバナーや各ゲームの公式サイト経由で公式ストアにアクセスすることができます。
GameWith (ゲームウィズ)
日本最大級のゲーム攻略、ゲーム紹介メディアを運営する GameWith (ゲームウィズ) でも、アプリ外課金を推奨するための取り組みが行われています。
主に広告によって収益を得ている GameWith ですが、同社のアプリは多くのスマホゲームユーザーによって利用されており、モバイルゲーム市場全体から見てみると GameWith のアプリユーザーの課金傾向および課金額は高めとなっています。そのため、GameWith にてアプリ外課金への導線を設置することで、課金意欲の高いユーザーへのアプローチがより一層促進できることが期待されています。
具体例としては、GameWith がアプリで提供するゲームの攻略記事内にアイテムバナーを設置し、各バナーにアプリ外課金サービスを紐付けしておくことで、該当のアイテム購入ページへとユーザーをスムーズに誘導させる仕組みが挙げられます。
Netflix (ネットフリックス)
ストリーミングサービスを展開するサブスク企業の大手、Netflix (ネットフリックス) では、アプリ上で「Netflix への登録を希望ですか?」という文言を設置しており、登録を希望するユーザーを Web サイトへと誘導しています。サイト上での登録が済み、サブスクサービスに対する課金が完了すると、アプリから映画や TV ドラマを自由に視聴できるようになり、アプリプラットフォーム上で発生する決済手数料を巧みに回避させています。
Stripe Checkout でできること
Stripe Checkout は、Web サイトやアプリで簡単に決済を受け付けることができる完全カスタマイズ可能な事前構築済みの決済フォームです。
決済の利点は以下の通りです。
- コンバージョンの向上: Checkout はモバイル向けに最適化されたデザインとワンクリック決済フローにより、顧客が決済情報を簡単に入力して再利用できるようにします。
- 開発時間を短縮: Checkout は、わずか数行のコードでサイトに直接埋め込んだり、Stripe がホストするページに顧客を誘導したりすることができます。
- セキュリティの向上: Checkout が機密性の高いデータを処理し、PCI 準拠を効率化します。
- グローバル展開: Adaptive Pricing により、100 以上の通貨で価格をローカライズでき、30 以上の言語に対応し、コンバージョン率を高める可能性が高い決済手段を動的に表示します。
- 高度な機能: Checkout は、サブスクリプションのための Billing、不正利用防止のための Radar など、他の Stripe プロダクトとの連携が可能です。
- 柔軟な管理: 決済手段の保存や購入後のアクション設定など、決済体験を完全にカスタマイズできます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。