イタリア経済財務省が発表した最新情報によると、脱税と社会保障費逃れにより、イタリアは 2021 年に 836 億ユーロの損失を被ったとのことです。その損失の内訳は、税収が約 732 億ユーロ、社会保障費収入が 104 億ユーロです。金額は前年より減少しているものの依然として高いままであり、イタリア政府は失われた税収を回復する新たな方法を絶えず模索しています。これにより、新しい税務評価改革が生まれました。この改革は、納税者がより正確な申告を行うように段階的に動機付けて、納税義務の自主的な遵守を向上させることによって脱税を撲滅することを目的としています。この記事では、税務評価改革の概要、主な内容、施行について詳しく紹介します。
この記事の内容
- 税務評価改革とは
- 改革の主な内容
- 税務評価改革の施行
税務評価改革とは
イタリアの納税者は、法的義務に従って納税申告書を自主的に提出し、自分の税金を計算する責任を負います。このプロセスでイタリア歳入庁による税務評価が行われ、その結果として評価通知が発行されることがあります。これにより、政府は納税者の納税行動を監視し、罰則を科すことができます。
2024 年 2 月 21 日に、イタリア共和国官報で 2024 年 2 月 12 日にイタリア政令第 13 号が施行されたことが発表されました。この政令では、税務評価と債権者との 2 年間の取り決めに関する新たな規定が導入されています。つまりこれが、税務評価改革です。それでは、この改革の概要と主な内容を掘り下げていきましょう。
改革の主な内容
この法令には 2 つのパートがあります。1 つは税務評価を扱うパート、もう 1 つは債権者との 2 年間の取り決めの策定に関するパートです。ここでは、改革の主な内容の概要を紹介します。
- 税務上の和解と予防的詰問
- デジタル住所の通知と伝達
- 国際協力
- 付加価値税 (VAT) の脱税および不正利用の防止と撲滅
- 税務評価の期限と時効期間の改正
- 債権者との 2 年間の取り決めの規制
税務上の和解と予防的詰問
税務評価に関する主な変更は、税務上の和解を成立させるための手続き (イタリア政令第 218/1997 号により規定) と、納税者の権利に関するイタリアの法案 (イタリア法第 212/2000 号) に定められた予防的詰問の実施義務についての規定を調整しようとする新たな規定に関するものであり、イタリア授権法第 111/2023 号の施行に伴って導入されました。まずは、「税務上の和解」と「予防的詰問」の意味を明確にすることが重要です。
イタリア政令第 13 号第 1 条では、納税者の同意を得て所得税と VAT の評価を確立することと、以前の評価に依存せずに不正に相殺された入金を回復することが定められています。税務上の和解とは、納税者が租税裁判所に不服申し立てを行わないことを条件として、納税者と政府の間で評価通知の前または後に成立する「合意」です。これにより、両当事者は予防的詰問を通じて税務上の主張を修正できるため、不審請求の申請の発生が回避されます。税務上の和解が成立すると、納税者は、罰金が最低額の 3 分の 1 に減額されるというメリットを得られます。
個人、パートナーシップ、職能団体、法人を含むすべての納税者が、税務上の和解の対象となります。不審請求の申請額に関係なく、税務上の和解は、直接税のすべてと重要な間接税の大部分に適用されます。
予防的詰問とは、イタリア歳入庁が税務評価手続きを開始する前に、評価の意図と理由を納税者に通知しなければならない手続きを指します。これが重要なのは、(政府が納税者に直接影響する措置を講じる前に) 納税者が自分の主張を述べる権利と行政当局の効率のバランスを取ることを目的としているからです。納税者の権利に関するイタリアの法案には、これまでに提案されていた制限を克服し、税金の種類、評価方法、議論段階で有効な見解を提出した場合または提出しなかった場合などに応じて、予防的詰問がすでに導入されていました。
税務評価改革によって導入された変更により、予防的詰問の概要を受け取った場合、納税者には次の 2 つの選択肢があります。
- 60 日以内に意見書を提出できます。
- 評価通知から 30 日以内に税務上の和解をリクエストできます。
1 つ目のケースのみ、予防的詰問プロセスが開始されます。このプロセスがうまくいかなかった場合、詰問の段階で当事者が不審請求の申請理由に対処していることを条件として、最終評価の発行でさらに詳細な評価が迅速に行われます。
デジタル住所の通知と伝達
税務評価改革では、税務当局による認証済みメールでの税務書類の送信が、デジタル住所を持つすべての納税者に拡大されました。これまでは、認証済みメールで通知を受信できるのは、法人、関連する登記簿やリストに記載されている専門家、破産管財人、司法清算人、行政機関に加え、義務を負わない個人でこの通信手段を明示的にリクエストした者に限られていました。
新法では、通知を正常に配信するためのルールも明確化・再編成されており、送信メッセージの異常や配信不能への対応が簡素化され、受信者ごとに区別されています。この法律によって政府に提供が求められている書類、通知、命令書に関して、メールを受信するデジタル住所の容量がいっぱいの場合、当局は初回のメール送信から少なくとも 7 日後に 2 回目の送信を試行する必要があります。
2 回目の試行後もメールボックスまたはオーソリ済みの認定配信サービスの容量がいっぱいの場合、またはメールを受信するデジタル住所が有効ではない場合、税務当局は個人納税者に対して通常の通知規定を適用できます。ビジネスや専門家に対しては、InfoCamere S.C.p.A. のウェブサイトの非公開エリアで電子的に送信できます。この改革では、申告日から 2 日以内に 15 日間、同ウェブサイトで関連通知を公表することも規定されています。また、当局は、追加の手続きを行わず、書留郵便でも受信者に通知します。
国際協力
税務評価に関する法令で国際協力について導入された主な変更点は、リクエストに応じた情報交換です。この法令では、税務当局が EU 加盟国や情報交換に関する協定が結ばれている第三国の所轄官庁と必要な情報を交換できることが定められています。これにより、税務当局や地域の部局 (地方当局など)、またはその代理機関が収集したあらゆる税タイプの適正な評価が保証されます。
最も重要な規定の 1 つでは、商業、産業、職能上の秘密またはビジネスプロセスが明らかになる可能性がある場合、または明らかになると社会秩序が脅かされる可能性がある場合、当局は情報を交換しないことが定められています。情報交換を拒否するもう 1 つの理由として、リクエスト元の EU 加盟国の所轄官庁が、事実上または法律上の理由から同じ種類の情報を提供できない場合があります。
付加価値税 (VAT) の脱税および不正利用の防止と撲滅
VAT の脱税および不正利用の防止と撲滅に関する主な変更点として、イタリアで VAT 情報交換システム (VIES) への登録を申請する個人で、EU または欧州経済領域 (EEA) の加盟国に居住していない個人については、より厳格なルールが設定されています。適切な保証書を発行する場合にのみ、個人の登録が認められます。イタリア経済財務省は、保証書の発行に関する基準と手続きを法令で定めることを予定しています。
活動を開始または変更する場合は、取引を行う課税担当者のデータベースに VAT 番号を記載するための申告書などを税務代理人がイタリア歳入庁に提出します。この税務代理人は、納税者が作成する書類が完全であり、保有している情報と一致していることを確認する必要があります。違反すると、3,000 ユーロ~ 50,000 ユーロの罰金が科されます。
税務評価の期限と時効期間の改正
税制では特定の税務監査期限が定められており、その期限を過ぎると税務当局は税務評価を開始できなくなります。イタリア政令第 13 号では、税務評価の期限と時効期間、申告期限後の提出期限が改正されています。主な期限は次のとおりです。
- 税務当局は、期限から 90 日以内に提出されたすべての納税申告書を有効と見なすこととします (申告遅延による行政的罰則は適用されます)。税務当局は、期限後 90 日を経過して提出されたすべての申告書を無効と見なすこととします。ただし、その申告書は、記載された課税対象額に基づいて税額を徴収するための参考資料として保持されます。
- 虚偽の納税申告を行った場合、政府は、納税者が虚偽の申告書を提出した年の翌年から 5 年目の 12 月 31 日まで税務評価を実施できなくなります。
- 源泉徴収税の申告を行った場合、政府は、納税者が申告書を提出した年の翌年から 7 年目の 12 月 31 日まで税務評価を実施できなくなります。
- 2024 課税年度について提出される申告書より、政府は、納税者が申告書を提出した年の翌年から 3 年目の 12 月 31 日まで、申告されているのに未納の税金、関連する利息や罰金を取得できなくなります。その 3 年後、税務上の和解が最後に成立した日から、政府は追徴税を適用できなくなります。
債権者との 2 年間の取り決めの規制
税務評価改革の一環として、イタリア政府は、脱税を撲滅するために新たに債権者との 2 年間の取り決めを実施しています。できるだけ多くの収入を回復し、ビジネスがこの新たな税務上の取り組みに自主的に参加するよう促すことを目的としています。債権者との 2 年間の取り決めの概要とその仕組みについて説明します。
2 年間の取り決めにより、イタリア歳入庁は、納税者が合意した年とその翌年の 2 年間にわたり、当該納税者に推定ベースで事前に税務上の和解を提示できるようになります。この取り決めに参加できる者は次のとおりです。
- 「Indici sintetici di affidabilità」(ISA、信頼性を示す指標の要約) が適用される事業活動、芸術活動、職能活動に関わる個人または法人。
- 定額税制 が適用される納税者。この場合、納税者は 2 課税年度以上活動している必要があります。
次のケースは、納税者がこの取り決めに参加できない詳細かつ具体的な除外理由を示しています。
- 社会保障または税務上の負債が 5,000 ユーロを超えている場合 (分割払いまたは一時停止の措置が取られている者を除く)
- 実施される取り決めより過去 3 年間、納税申告を行っていない場合
- 実施される取り決めより過去 3 年間、マネーロンダリング、セルフロンダリング、虚偽の企業通信で有罪判決を受けている場合
次の場合にも、取り決めは無効になります。
- 納税者が納税申告書を修正し、その結果、取り決めに基づいて申告される生産額と利益額も修正する場合
- 申告書に許容限度の 30% を超える誤りがあった場合
納税者は、2024 年 10 月 15 日までに所得税申告書の適切なセクションに記入して債権者との 2 年間の取り決めを締結する必要があります (ISA 納税者は CPB フォーム、定額税制納税者は PF 所得モデルの第 VI 項、LM フレームワークに記入します。2024 年 6 月 15 日から最新バージョンがオンラインで公開されます)。
債権者との 2 年間の取り決めを結ぶかどうかを決定する際に、ビジネスはメリットとデメリットを比較検討する必要があります。支払うべき税金が 2 年分設定されるため、申告よりも収入が多いビジネスでは支払う税金が少なくなります。一方で、申告した収入を下回った場合でも返金はありません。そのため、この選択肢を採用するかどうかを決断する際は、会計担当に相談することをお勧めします。
税務評価改革の施行
税務評価改革は、2024 年 2 月 22 日に施行されました。ただし、予防的詰問を含む評価の改革に関する規定は、2024 年 4 月 30 日に発令された法律に伴って有効になりました。一方で、債権者との 2 年間の取り決めに関する規定は、2023 年 12 月 31 日に進行中の年度の次の課税年度から適用されます。
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