準備金口座: 概要と事業者にとって必要な理由

  1. はじめに
  2. 準備金口座とは
  3. 現金準備金が必要な理由
  4. 用意しておくべき現金準備金の額
  5. 現金準備金目標額の計算方法
  6. Stripe の準備金口座の仕組み

経営者はビジネスのあらゆる面を守るために事前に計画を立てています。保険に加入し、税務、法務、法令遵守に対応する専門家を雇い、店舗の合鍵を作成しています。また、財務面でのランウェイ (会社の資金がなくなるまでに残された猶予期間) を確保する必要もあります。準備金口座はそのために役立つものです。

十分な現金準備金を備蓄しておくといいと知ってはいても、ほとんどのビジネスオーナーはまだ実行に移していません。JPMorgan が 59 万 7,000 社の中小企業を対象に行った調査では、他の収入が枯渇した場合に準備金で事業を運営できる日数が 13 日未満である事業者が 25% に上ることが明らかになりました。

準備金口座の概要とそれが重要な理由、予定外の支出や収入減から会社を守るために適切な規模の準備金口座を積み立てる方法について、ビジネスオーナーが知っておくべきことをご紹介します。

この記事の内容

  • 準備金口座とは
  • 現金準備金が必要な理由
  • 用意しておくべき現金準備金の額
  • 現金準備金目標額の計算方法
  • Stripe の準備金口座の仕組み

準備金口座とは

準備金口座 (「現金準備金」とも呼ばれる) は、将来に現金が追加で必要になったときに備えて蓄えておく予備資金を預ける口座です。いわば、事業者の緊急資金のようなものです。

現金であることがほとんどですが、そうでない場合もあります。準備金口座はすぐに換金して利用できる資金を指します。マネーマーケットファンド (MMF) などの短期投資もすぐに現金に換金できるため、準備金口座で使用できます。

現金準備金が必要な理由

私たち個人の生活で緊急資金が重要であるのと同じように、現金準備金はあらゆる事業者の財務計画で重要な役割を果たします。予定外の支出が突然発生したり、予期せず収入が減少したりする可能性があるからです。準備金口座はビジネスの融資保険契約です。

どの事業者にも価値あるものですが、中小企業のオーナーが財務面で困難な状況に陥ると、オーナー個人の財政状態にも影響が及ぶ可能性があります。

たとえば、コロナ禍を例に考えてみましょう。ロックダウン (外出禁止令) が発令されたことで、多数の事業者が突然事業を運営できなくなりました。さらに、ビジネスモデルが安全対策と相容れないために事業運営が制限された事業者も多数存在しました。Yelp が収集したデータによると、コロナ禍の影響で廃業した事業者数は、約 9 万 8,000 社に達することがわかっています。

コロナ禍は、突然に事業継続が不可能になって数え切れないほどの事業者に影響が及んだ明らかな事例です。準備金口座は、予期せぬ障壁が現れたときに中小企業が破綻せず支払い能力を維持できる重要な追加保険契約です。

準備金口座が役立つのは中小企業だけではありません。次の理由から、プラットフォーム、SaaS ビジネス、大企業にも重要です。

  • 財務の安定性
    準備金口座は財務面での緩衝材となり、ビジネスの安定性が向上します。セーフティーネットとして機能し、事業を存続の危機に陥れることなく、予定外の支出、景気後退、予期せぬ事態を乗り切ることができます。

  • リスクの緩和
    準備金口座を保有しておくと、キャッシュフローの問題が発生した場合のリスクを緩和できます。これらの準備金で、顧客からの支払いの遅れや予定外の支出などによる短期的な資金不足を補うことができるため、財務が不安定になるリスクが緩和されます。

  • 事業拡大と成長
    準備金口座は事業拡大や成長に向けた取り組みにも役立ちます。新規プロジェクト、研究開発への投資、市場機会の調査などの資金に活用できます。準備金を蓄えておけば、外部の資金供給源だけに頼らずに済み、想定内のリスクを取って成長戦略を追求できます。

  • 事業継続
    SaaS ビジネスやプラットフォームの場合、準備金口座があるとサービスを途切れさせることなくスムーズに提供できます。準備金は、サーバーインフラの保守、売上減少時期の運用コスト、テクノロジーのアップグレードに対する投資に充当できます。そうすると、利用者に提供するサービスの品質と信頼性を保てます。

  • 投資機会
    準備金を蓄えておくと、想定外の投資機会が現れたときに飛び乗ることができます。長期的な成長と競争力向上につながる戦略的パートナーシップ、合併、買収などの冒険的な取り組みに乗じられるようになります。

  • 法令遵守と規制要件
    特定の規則や法的義務を遵守するために準備金口座が必要になる場合があります。たとえば、金融機関は法令遵守の一環として、起こり得る損失を吸収して規制基準を満たせる十分な資本金を確保するために、準備金口座を保有することが義務付けられている場合があります。

  • 投資家からの信頼
    準備金口座があると、財務管理と財政規律がきちんとしていることを示せます。財政的な問題に対処して長期的な事業継続が可能であることを示せるため、投資家からの信頼が高まります。投資家の関心を引きつける場合や、資金を確保したい場合、利害関係者との間で自社に有利な条件を交渉する場合に特に重要になります。

  • 返金対策
    準備金口座があると、チャージバックや返金のリクエストが急に大量に押し寄せても耐えることができます。数百件の取引が不正利用だったことがわかり、ただちに返金が必要になったとしましょう。そのような事態になると、キャッシュフローに深刻な影響が及びます。あるいは、新製品に不具合があり、返金と返品処理が必要になるかもしれません。準備金口座があると、そのような状況に対処できます。

用意しておくべき現金準備金の額

余裕資金はどのくらい用意しておく必要があるでしょうか?ほとんどの中小企業の場合、一般的には 3 カ月から 6 カ月間の営業経費を賄うに足る資金を準備金口座に確保しておく必要があります。それより大規模な企業だと、この質問への答えはもっと複雑になります。

中小企業の準備金口座についてもう少し詳しく説明します。準備金口座に必要な金額は、ビジネスのさまざまな要素によって異なります。JPMorgan の調査によると、中小企業の現金準備金の中央値は約 1 万 2,000 ドルですが、業種間で大きな差があります。たとえば、ハイテク製造企業は常に 3万 4,000 ドル以上の準備金を確保している傾向がありますが、個人向けサービスの事業者は平均で 5,300 ドルの現金残高しか保有していません。

準備金口座に備蓄する目標額を決める際には、次の質問について考えてみてください。

  • 事業で毎月どのくらいの現金を使っていますか?
    固定費、変動費、季節費を考慮してください。

  • 必要不可欠な業務を維持するためにどのくらいの現金を手元に置いておく必要がありますか?
    とりあえず自社のこの数字を把握しておき、定期的に見直すとよいでしょう。

  • 現在利用できる資金調達元としては、ほかにどのようなものがありますか?
    実際の現預金のほかに、必要に応じてすぐに換金できる資産がありますか?この検討を行う際にはそれらも含めてください。

次に、もっと規模が大きな企業について説明します。準備金口座に関して検討するべきことは中小企業とは異なります。準備金口座に保有する資金額を決める際には、次の質問について考えてみてください。

  • ビジネスに影響を及ぼす可能性があるリスクや不確定要素にはどのようなものがありますか?
    景気後退、市場の変動、業界特有の課題、規制の改定など、自社が直面する可能性がある具体的なリスクを評価します。それらのリスクが業務に与える影響とその確率を検討してください。

  • 自社のこれまでのキャッシュフローのパターンはどのようなものでしたか?
    これまでのキャッシュフロー計算書を見直して、自社の典型的なキャッシュフローの変動を把握します。キャッシュフローが多い時期や少ない時期、季節的な変動がある時期を特定しましょう。この分析で、売上減少時期の営業経費を賄うのに必要な最低額を推定できます。

  • どのような固定費と変動費がありますか?
    賃料、給与、電気料金・水道光熱費、保険料など、定期的に発生する必要不可欠な固定費を特定します。また、売上高やその他の要因に応じて変動することがある変動費も考慮しましょう。この評価で、そのような経費を賄うために必要な基準額を判断できます。

  • この先、高額な支出や投資をする予定がありますか?
    この先に予定している設備投資、事業拡大や、テクノロジー、インフラ、マーケティング活動への投資があるか考えます。そのような取り組みのために十分な資金を確保できるように、準備金を計算する際にはこれらの経費を考慮に入れる必要があります。

  • 財政状況の悪化から回復するのにどのくらいの期間がかかりますか?
    売上の減少、重要顧客の喪失、予定外の支出など、財政状況の悪化によって起こり得る影響を評価します。そのような状況の悪化から回復するのにかかる期間と、その回復期間中に事業を継続するために必要な準備金の金額を推定します。

  • 業界の標準や基準はどのくらいですか?
    準備金に関する業界の基準やベストプラクティスを調査します。規模、売上、リスクプロファイルが同程度の事業者と比較しましょう。この分析では、自業種内で適切だと見なされている一般的な準備金の水準を把握できます。

  • どのような規制要件や法的要件がありますか?
    準備金の最低水準を指示する具体的な規制や法的要件があるか確認します。準備金を計算する際には、このような義務を遵守することも考慮に入れます。

  • 自社の成長目標や将来の計画はどのようなものがありますか?
    自社の成長軌道と戦略計画を考慮します。想定される投資機会、事業拡大の取り組み、新製品開発計画など、追加の資金が必要になる可能性があるものを評価します。準備金の計算では、このような将来の目標も考慮しましょう。

現金準備金目標額の計算方法

準備金口座に蓄える (または既存の現金準備金に追加する) 目標額を計算するには、年間の全体的なキャッシュフローを見ます。毎月のキャッシュフロー計算書を見て、毎月どのくらいの資金が出入りしているのか、年間だとどのようになっているのか把握します。年間キャッシュフローを見る際には、営業経費の季節変動も考慮します。

自社のバーンレート (事業運営で支出する金額) を明確に把握できたら、何らかの理由で収入が一時的に途絶えた場合に事業を 3 ~ 6 カ月間運営するのに必要な金額を計算できます。キャッシュフローが完全に途絶える可能性は低いでしょう。しかし、そのような状況を考慮して準備金目標額を十分に設定しておけば、そのような事態が起こっても事業運営に充当できます。

現金準備金の目標額が決まったら、準備金にすでに確保している現金やすぐに換金できる投資などの資産があればその金額を引きます。目標額から現在保有している金額を引いたものが、準備金口座に蓄える目標額になります。

Stripe の準備金口座の仕組み

Stripe は準備金口座の導入も含めて、事業者を支援する新たな方法を常に模索しています。購入者からの返金のリクエストや不審請求の申請が行われるリスクが高まったと思われる場合、事業者のために Stripe が準備金口座の積み立てを開始する場合があります。事業者のために準備金口座を開設する可能性があるのは、次のような場合です。

  • 業界の状況
  • 決済アクティビティー
  • 不審請求の申請率
  • 返金率

Stripe を利用した準備金口座は財務面でのバッファーであり、返金やチャージバックに充当する資金として利用できます。アカウントにリザーブを確保した場合は、Stripe からお知らせします。また Stripe が定期的に状況を再評価し、リザーブを解除するのが適切かどうかやその時期を判断します。

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