ドイツでは、電子決済システムを利用するすべての事業者は、購入者に対し、支払い証明として購入領収書を提供する必要があります。この要件はドイツのキャッシュセキュリティ条例 (Kassensicherungsverordnung) によって課されたものであり、2020 年 1 月 1 日から施行されています。この記事では、加盟店が考慮すべき点、この法的規制の例外、電子購入領収書の発行方法について説明します。
この記事の内容
- 購入領収書とは
- 購入領収書を発行する必要があるのは誰か
- 購入領収書、領収書文書、およびその他の種類の売上領収書の違い
- 購入領収書に含める必要のある情報
- 領収書発行の要件に従わなかった場合の罰則
- 購入領収書発行の要件の免除を受けることは可能か
- 購入領収書は電子形式のみで発行可能か
購入領収書とは
購入領収書は、取引の証拠として決済時に印刷される領収書です。たとえば、小売店での購入者に対する購入領収書は、その購入者が、現金払いまたはキャッシュレス決済で、商品に対する支払いを行ったことの証拠です。現金の場合もキャッシュレスの場合も、購入者は購入証明書として印刷された購入領収書を小売店から受け取ります。
購入領収書は、単に商品の購入証明書を意味するだけでなく、購入した商品の種類、商品の数、購入価格も示しています。購入領収書は購入者のためにレジ用ロールペーパーに印刷され、取引内容は加盟店の電子決済システムに保管されます。
購入領収書を発行する必要があるのは誰か
ドイツでは 2020 年 1 月 1 日以降、ドイツ財政法 (AO) 第 146a (2) 条、キャッシュセキュリティ条例 (Kassensicherungsverordnung) に従い、電子決済システムを使用を利用する事業者は購入者に対して領収書文書を発行する必要があります。この要件は購入金額に関係なくすべての取引に適用されるものであり、単に 25 セントのロールパンを 1 つ購入した場合でも、購入者は領収書を受け取る必要があります。購入領収書の義務化に関するこの規制の一環として、ドイツの電子決済システムは、認定を受けた技術セキュリティデバイスを搭載する必要があります。
購入領収書の発行を義務化する目的
購入領収書の提供という法的義務は、企業が決済時に現金領収書を出さずに済ますことによる脱税を防ぐためのものです。電子決済システムを介して行われたすべてのビジネス取引はシステムに保管されるため、追跡することができます。税務署の監査員は必要に応じて電子決済の記憶装置を読み込み、決済監査の一環として、購入領収の発行の要件に企業が従っているかどうかを判断できます。このため、決済領収書は電子的な観点から、取引が規則に従って実施されたことの証拠となります。
購入領収書発行の要件が免除される場合
「手動での決済」(データが保管されない手動操作) を行っている小規模事業主は、領収書発行の義務を免除されます。ドイツ連邦財務省から、キャッシュセキュリティ条例の範囲内での領収書発行義務に関する詳細な法的要件の詳細情報が提供されています。
手動決済を行っている場合も領収書の発行が必要か
加盟店が、POS による電子決済システムの代わりに手動操作による決済フローを使用している場合は、領収書発行の義務を免除されます。ただし、その場合でも、購入者からその購入の領収書を求められたら、印刷した購入領収書の代わりに標準的な領収書を購入者に発行する義務があります。
購入領収書、領収書文書、およびその他の種類の売上領収書の違い
購入領収書は、電子決済システムから自動的に生成され、企業の顧客のビジネス取引の証拠となります。それと同時に、電子的な購入領収書は、税務署に対して企業の売上が正しく取引されたことを示す証拠にもなります。購入領収書には、サービスまたは商品の購入およびその支払いに関する情報が記載されています。
この点で購入領収書は購入の証拠とみなされますが、一般的には標準的な売上領収書とは認められません。標準的な売上領収書に含まれていなければならない必要情報がすべては記載されていないからです。標準的な売上領収書は手動で発行され、発行者の手書きの署名によって、支払いまたはサービスを受けたこと、および未払いの請求が他にないことを確認するものとなっています。
購入領収書に含める必要のある情報
ドイツのキャッシュセキュリティ条例 (KassenSichV) 第 6 条に、購入領収書に含める必要がある必須情報が、以下のとおり記載されています。
- 発行する会社の名前と所在地
- 販売した商品またはサービスの種類と数量
- その書類を発行した正確な年月日
- 決済タイプごとの金額
- 完了した取引に割り当てられる固有の番号
- すべての商品またはサービスの合計額 (適用税率を含む)
- 決済システムの連番
- 決済またはセキュリティモジュールの署名カウンター
- 請求書の正確で信頼できる確認コード
この情報は、領収書文書にテキストと数字の組み合わせで表す必要があります。具体的には、それぞれの領収書文書には、税務署が領収書の発行プロセス全体を追跡できるように固有の識別番号が付いている必要があります。最新式の電子決済システムは、この要件を満たしています。
購入領収書に QR コードを表示するというオプションもあります。これは必須ではありませんが、QR コードがあると、決済の監査プロセスをが大幅に簡素化されます。
領収書発行の要件に従わなかった場合の罰則
ドイツ財政法 (AO) では、購入領収書の提供義務に従わなかった場合の罰則は規定されていません。電子決済を使用している事業者が購入領収書発行の義務に従わなかった場合に、直接的な法的影響はありません。ただし、不正行為があった場合は、税務署が試験的な購入を行って決済の監査を命令することがあります。
領収書文書の発行に際して何らかの空白がある場合、税務署はこれをドイツの適正な会計処理の原則 (GoBD)に対する違反と見なします。監査員が追加の売上や利益が得られていたと見積もった場合、領収書発行の義務に従わなかった事業者に相当な追加課税が行われる可能性があります。
購入者が購入領収書を受け取らなかった場合はどうするか
ドイツ財政法 (AO)第 146a(2) 条の規程によると、電子決済システムを使用している事業者は、個々のビジネス取引ごとに購入者に対して領収書文書を発行する必要があります。購入者がその領収書を持って帰るかどうかは関係ありません。購入者が領収書を要求した後に受け取りを拒否した場合でも、購入領収書は毎回発行する必要があります。
購入領収書発行の要件の免除を受けることは可能か
電子決済システムの代わりに手動操作による決済フローを使用している事業者のみが、購入領収書発行の義務を免除されます。
ただし、電子決済システムを使用している事業者であっても、ドイツ財政法第 146a(2) 条第 2 文に基づく領収書発行義務の免除を得ることができます。財政法では、この要件について次のように規定しています: 「多数の未知の個人に商品を販売する場合、収入当局は適切な裁量を行使し、合理性の根拠および第 148 条に従い、AO の第 146(2) 条第 1 項に従って領収書発行の義務を免除することができる。この免除は取り消すことができる」
分かりやすく言うと、(小売業者のように) 一過性の取引を行っていて、電子決済システムを使用している事業者は、領収書発行の義務を免除される可能性があるという意味です。この種の事業者は、領収書発行義務の免除申請を管轄税務署に提出することができます。ただし、コストを根拠にこの申請を行うべきではありません。税務当局は、不合理性の根拠のみに基づいて申請を検討します。税務署は個々のケースで請求書を発行するのは不合理だと見なす可能性がありますが、決定はケースバイケースで行われます。事業者は、自身が提供しているサービスまたは商品に基づいて領収書を発行することが、事業者にとって不合理であることを示さなければなりません。
申請が拒否された場合、関係する事業者は、この決定に対して異議を申し立てる必要があります。税務当局から領収書発行義務を長期的に全面免除してもらうには、食品小売業者などの特定業種の事業者にとってはこれが唯一の方法です。なお、領収書発行の義務の免除申請が許可された場合でも、事業者は以下の義務に引き続き従う必要があります。
- 事業者は引き続き、会計上の目的のために、自社の領収書を作成しなければなりません。
- 技術セキュリティデバイスに関する義務要件は、引き続き適用されます。
- 購入者から領収書を要求された場合は、領収書を渡す必要があります。
購入領収書は電子形式のみで発行可能か
領収書発行の義務に対して批判の声がありますが、その理由の 1 つとして、多くの業種においてはわずか数セントのために購入領収書を印刷しなければならないことが挙げられます。一方で、このような領収書の多くは、受け取った直後に捨てられています。
キャッシュセキュリティ条例第 6 条第 3 項によると、購入者に対して電子領収書を出してもよいとされています。電子領収書は、JPG/PNG/PDF ファイルの形式でメールまたは Bluetooth で購入者のスマートフォンに送信できます。ただし、この方法は、パン屋や精肉店のように一過性の取引を行っている事業者には現実的ではありません。また、データ保護の要件に関連する問題も生じます。このような事業者にとっては、やはり、領収書発行の義務の全面的免除が最善の解決策です。ただし、サービス業など、電子購入領収書が極めて現実的な業界もあります。
電子購入領収書の作成方法
電子購入領収書の作成と送信には、さまざまな技術を利用できます。最も一般的なのは QR コード、NFC (「近距離無線通信」)、SMS、メールです。
メールと SMS の場合は、事業者がメールアドレスや携帯電話番号などの情報を提供するよう購入者に依頼する必要があるというデメリットがあります。自身のデータを提供することに関するデータ保護規定に購入者が同意しなければなりません。すべての購入者が自身の情報を進んで開示するわけではないため、事業者はこの課題を乗り越える必要があります。メールと SMS の場合、購入者は購入領収書をダウンロードするためのリンクを受け取ります。
電子購入領収書を作成する方法として最も簡単なのは、NFC を利用する方法 です。このテクノロジーに対応したアイテムには、対応するチップが埋め込まれています。購入者は自分のスマートフォンを決済端末にかざして支払いを行い、(Apple Pay や Google Pay などによる) 取引後にスマートフォンで領収書を受け取ります。ただし、このテクノロジーはまだあまり普及していません。
QR コード経由での送信も素早く簡単で、データ保護の問題もありません。このテクノロジーを利用すると、事業者は購入者から同意を得る必要も、購入者のデータを取得する必要もありません。加盟店は、決済端末で顧客に表示する QR コードを用意し、対応する決済ソフトウェアをインストールするだけです。購入者は、決済端末に表示される QR コードを自身のスマートフォンでスキャンするだけで、領収書が PDF 形式でスマートフォンに届きます。
電子購入領収書のメリット
電子購入領収書には、紙の領収書と比べて次のようなメリットがあります。
- 決済プロセス全体が電子化される: 購入者に対して電子領収書を発行する傾向が高まっており、事業者がこれに対応することになる
- 管理が明確で簡単: 紙を使わない領収書は一般に、手間が少なく、購入者は自分の経費と支払いを把握しやすい
- 電子領収書の耐久性: 従来の紙の領収書、特にいわゆる感熱紙の領収書 (燃料の領収書やサービス業の領収書) は、ほんの数カ月で色あせてしまい、ほとんど読めなくなる
- 環境にやさしく、コスト効率が高い: 紙を使わない領収書は資源を保護し、二酸化炭素の排出および再利用のコストが抑えられる
電子購入領収書のデメリット
電子領収書を利用する場合、企業は領収書発行義務のすべての要件を満たすことになりますが、デメリットもいくつかあります。
- 懐疑的な見方: 現在のところ、買い物客は電子領収書に対してまだ懐疑的な見方をしています。電子領収書を受け入れる人は増えていますが、多くの購入者は今でも、印刷した領収書を要求しています。
- データ保護の問題: 電子領収書の利用の普及にとって主な障害となっているのは、データ保護要件です。この点において、購入者に個人データの提供を依頼する必要なしに購入領収書を発行できるようにすることが、最も大きな課題となっています。
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