課題
新型コロナウイルス感染拡大の収束に伴い日本のライブイベントが再開すると、市場は急速に活気を取り戻しました。フェスティバルのチケットは完売し、会場は満員となり、約 2 年間スタジオから配信を続けてきたアーティストたちもステージに戻ってきました。チケット販売プラットフォームを提供する ZAIKO は、有料ライブ配信への転換によってコロナ禍も事業を維持してきました。会場でのイベントが再開するなか、ZAIKO はオンライン配信と会場の両方でチケットを販売するようになります。しかし、同社のシステムが対応していたのは、イベント全体の一部でした。
オンラインでのチケット販売は、公演前日の 23 時 59 分まで受け付けていました。しかし、ZAIKO のシステムが対応している範囲は会場の入口までのため、来場者が会場に到着した時点からは使用することができませんでした。また、当日券は会場が、アーティストのグッズはアーティスト側が手配した会社が、飲食はさらに別の事業者か会場が担当し、それぞれが異なるシステムを使用していました。オンラインでは数秒で完了するチケット販売が、会場では来場者が現金でドリンクチケットを購入するために列に並ぶ状況でした。
ZAIKO が顧客について把握できるのは、チケットの購入まででした。顧客がチケットを購入したことは分かっても、同じ顧客が会場で 20 万円分のグッズを購入したことを知る手段はありません。各事業者の売上データはそれぞれのシステムに分散し、他の事業者からは見えない状態でした。複数の接点を横断するデータがなければ、来場者がイベント全体で実際にいくら支払ったのかを把握することも、その情報を複数のイベントにまたがるマーケティングに活用することもできません。そのため、会場内の各接点から得られる決済データを一元化する必要がありました。
ソリューション
最高執行責任者の Sach Jobb 氏は、この会場での決済という課題について 1 年ほど前から最高技術責任者の Andrew Winter 氏に相談をしていました。ZAIKO は 2015 年から Stripe を利用し、オンラインでのクレジットカード決済をはじめ、コンビニ決済、Alipay、WeChat Pay、サブスク、越境決済へと利用範囲を広げてきました。Stripe Terminal の日本での提供開始を知った Jobb 氏と Winter 氏は、すぐに動き出します。
Winter 氏は、Stripe Terminal を基盤に、会場内のさまざまな取引に対応する単一のアプリを構築しました。当日券、グッズ、飲食、駐車券など、イベント運営者が販売したいものをこのアプリで取り扱えます。iPhoneのタッチ決済を利用すれば、会場スタッフは追加のハードウェアを用意することなく、手持ちの iPhone でカード決済を受け付けられます。
このアプリにより、バックオフィスの課題も解決されました。各事業者が閲覧できるのは自社に関係する明細のみで、会場、グッズ、飲食、駐車券、それぞれの事業者が正確なレポートを受け取れます。一方、すべての決済データは ZAIKO のプラットフォームに集約されるため、ZAIKO はイベント全体の取引を一元的に把握できるようになりました。
あるイベントでは、両氏は当日スタッフとして現場に立ち、来場者の流れを見ながらその場で改善点を特定していきました。開発ツールの「Expo」と AI を活用してアプリを更新し、その場で再デプロイすることで、現場で運用改善を繰り返しました。
「リアルタイムに調整を加えていました。Claude に指示しながら進められるので、Stripe Terminal を使った開発は非常にスピーディーでした」と Winter 氏は語ります。
成果
ZAIKO、Rainbow Disco Club で複数の決済システムを 1 つのアプリに集約
Stripe Terminal の導入前は、1 つのフェスティバルで当日券、グッズ、飲食、駐車券にそれぞれ異なる決済システムが使われていました。Winter 氏は、最初のプロトタイプを 72 時間で開発し、その後、アプリを 1 カ月で完成させました。プロトタイプはその直後のイベントで稼働し、iPhoneのタッチ決済による決済を処理しました。
このアプリを初めて導入したのは、伊豆で数日間にわたって開催される野外フェスティバル「Rainbow Disco Club」でした。会場の入口、駐車券、バーの各担当者は同じアプリを使用し、それぞれの権限に応じた売上レポートを確認できます。各社が確認できるのは自社の売上・精算データのみで、ZAIKO はアプリを通じてイベントの全体像を把握できます。
2 日でドリンクチケットの iPhoneのタッチ決済を導入し、行列を解消
日本の多くのライブイベントでは、入場時に現金でドリンクチケットを購入するための長蛇の列が発生します。待ち時間が長く、開演前から来場者の熱量をそいでしまうことが課題でした。そこで ZAIKO は、ドリンクチケットを iPhoneのタッチ決済で購入できる仕組みをわずか 2 日で構築・導入しました。
チャネルを横断した支出データの把握により、リマーケティングが可能に
決済データを ZAIKO のプラットフォームに集約することで、ZAIKO は 1 人の来場者がイベント全体でどれだけ使ったかを把握できるようになりました。「お客様がチケットを購入し、その後、会場で 20 万円分のグッズを購入しても、以前はそれを把握する手段がありませんでした」と Jobb 氏は語ります。Jobb 氏は、この一元化された仕組みを複数のイベントへと広げ、顧客ごとの累計利用額を把握できる顧客プロファイルを構築する計画です。
Winter 氏は次の展開として、コンサートの最後に T シャツを購入しようとしても、多くのサイズが売り切れている場面を挙げます。これまでの購買データを把握できていれば、ZAIKO がその来場者に QR コードでオンラインストアを案内し、イベント後の購入につなげることが可能になります。
こういうお客様が実は A イベント、B イベント、C イベントに行って、実はこのぐらい売上がある、ということを分析して、もっとシステム内からマーケティングができる機能を作りたいと思っています。」