インターネットが普及し、商品やサービスの購入を含むさまざまな取引がデジタル化する今日において「エスクロー決済」ということばを耳にしたことはないでしょうか。
エスクロー決済は、売り手側および買い手側といった取引上の当事者同士が互いに安心して取引できるようにするための、金銭の受け取り・支払いの仕組みを指します。たとえば、インターネット上の C2C 取引で商品を購入する際、「決済後にちゃんと商品が届くのか」、「この販売者にお金を支払っても大丈夫なのか」と消費者側が不安を抱くことは少なくありません。そんな不安を解消する金銭授受の仕組みが、エスクロー決済です。
本記事では、エスクロー決済の基礎知識として、エスクロー決済の仕組みやメリット、サービス事例について解説します。
目次
- エスクロー決済とは
- エスクロー決済が注目される理由
- エスクロー決済のメリット
- エスクロー決済が導入されているサービス事例
- 取引の安全性・公平性・透明性の確保が大切
- Stripe Connect でできること
エスクロー決済とは
冒頭の解説のように、エスクロー決済とは売り手、買い手との間で行われる取引の安全性および信頼性の確保を目的とする金銭授受の仕組みを意味します。
エスクローはもともと英語の「Escrow」という単語で、日本語では「預託」と訳します。また、ビジネスにおいては中立な立場の「第三者預託機関」をエスクロー、あるいはエスクロー事業者と呼んでいます。この「エスクロー」という言葉は不動産事業においてよく用いられ、買い手は購入代金を、売り手は不動産の権利証書などの書類を、中立な立場にある第三者機関に預けます。つまり、買い手と売り手の間で直接的なやり取りはなく、第三者のエスクローサービス業者を仲介者として取引が進められるため、初めての取引相手のように当事者間で十分な信頼関係が築かれていない場合でも、安心して売買取引を行うことができます。
オンライン取引におけるエスクロー事業者の役割についても不動産の売買と同様に、エスクロー事業者はまず代金を買い手から預かります。エスクロー事業者が預かった代金は、買い手側で商品の受け取りが問題なく完了したことが確認された時点で、エスクロー事業者から売り手側に速やかに引き渡されます。このように、EC 事業においてエスクローサービスが用いられることで「代金の未回収」や「商品の未着」といったトラブルを回避できるようになっているのです。
仕組み
前述のように、売買取引において優れた効果を発揮するエスクロー決済ですが、具体的な仕組みは以下のとおりで、6 つのステップを踏むことで取引が実現します。
- 取引成立: 売り手と買い手の間で売買取引が成立
- 買い手による支払い: 買い手がエスクロー事業者に購入代金を預ける
- 預託完了通知: エスクロー事業者から売り手に代金の支払い (預託) が完了したことを通知
- 商品発送・受け取り: 売り手は商品を買い手に発送し、買い手が受け取る
- 商品受け取り通知: 買い手はエスクロー事業者に商品受け取りが無事完了したことを通知
- 売り手への支払い: エスクロー事業者から売り手に、買い手から預かっていた代金を送金
エスクロー決済が注目される理由
エスクローサービスは、事業者間で行われる B2B 決済シーンだけでなく、オンライン取引、特に C2C 取引の活発化にともない注目を集めるようになりました。フリマやオークションといった個人間で行われる C2C 取引では、売り手側にとっては「代金未払い」、買い手側にとっては「商品の未着・不備」などのリスクが生じるケースが多々あります。そこで、双方の懸念に対応すべく、当事者間でストレスなくスムーズに取引を行えることを目的として、第三者機関によるエスクロー決済が提供されているのです。
エスクロー決済のメリット
取引の安全性の担保
ここまでの解説で既におわかりのとおり、エスクロー決済の最大のメリットは、売り手と買い手の双方にとって安全性の高い取引が可能になるという点です。
たとえば、通常は買い手の手元に商品が無事届き、商品に問題がないことが確認できれば、後ほどエスクロー事業者から売り手側に代金が送金されます。しかし、もし注文した商品と実際に届いた商品が違っていたり、不良品が届いた場合は、買い手はエスクロー事業者に異議を申し立てることができるようになっています。
また、商品に不備がなかったことが確認されれば、売り手に対して商品代金が確実に支払われるため、売り手側としても代金未回収のリスクを避けられます。
契約内容の可視化
エスクロー決済なら、契約内容は売り手と買い手だけでなく、第三者によっても可視化されるため契約内容の透明性が維持できます。このようにエスクロー事業者によって取引の公平性が確保されれば、売り手、買い手のどちらかにとって思いがけない不都合などが生じることはありません。
たとえば、日本ではまだ一般的とはいえませんが、欧米など海外においては取引額が特に高額となる不動産購入の際に、不動産に特化したエスクローサービスは必須となっており、透明性と公平性の高い契約プロセスが求められます。
トラブル防止
当事者間でのコミュニケーションが粗雑になるなど、何らかの原因によって取引金額や支払期限に関する誤解が発生してしまうといったトラブルは避けたいものです。エスクロー決済が導入されている場合、エスクロー事業者である第三者機関が間に立つため、当事者間でのこうしたトラブルを防ぐことができます。また、万が一にもトラブルが生じた際には、エスクロー事業者が仲介役となり、解決に向けて中立的かつ適切なサポートを提供します。
エスクロー決済が導入されているサービス事例
エスクロー決済がいかに取引上において役立つかを解説したところで、ここではエスクロー決済を導入しているサービス事例を紹介します。
メルカリ
C2C 取引として日本最大級のフリマサービスを展開するテナント型 EC モールの「メルカリ」では、エスクロー決済が導入されています。最近では、固定価格で販売するフリマ形式だけでなくオークション形式も導入され、出品者側で最適な販売形式を選択できるようになっています。
一般的に、フリマやオークションのように個人間で商品の売買が行われるシチュエーションにおいては、「代金を支払ったのに商品がいつまでたっても届かない」、「商品は届いたけれど、破損している」といったリスクがともないます。しかし、メルカリの場合、買い手が商品を購入した時点で、メルカリ側が商品代金を一時的に預かり、買い手の手元に商品が無事届いたことが確認されるまでは、売り手に代金は支払われない仕組みになっています。
このようにメルカリではエスクローサービスを採用することで、不良品や模倣品の取引といったトラブルの回避と、利用者の信頼を獲得することに成功しています。
ブッタスク
法事や葬儀などの仏事や、厄除け、祈願などの目的に応じて最適な僧侶を見つけることができるマッチングサービスの「ブッタスク」でも、エスクロー決済が導入されています。「お坊さん探しの悩みを 0 にする」ことを目的とするブッタスクはシェアリングエコノミーの 1 つでもあり、法務、宗派、エリア、お布施の目安、スキル、人柄などさまざまな要件をもとに僧侶と生活者をつなぐ役割を果たしています。
マッチングが成立すると、クレジットカード決済か銀行振込でエスクロー決済が行われ、僧侶による法務が滞りなく実施されたことが確認できたのちに、正式に僧侶側に代金が支払われます。
取引の安全性・公平性・透明性の確保が大切
今回はエスクロー決済について、仕組みやメリット、サービス事例を踏まえて解説しました。
エスクロー決済は、オンラインで商品やサービスを購入する側と、販売する側双方の安全性と公平性に加え、取引内容の透明性を確保することを目的として、当事者間で起こり得るトラブルを防止する役割を担っています。特に、初めての取引であれば、当事者だけで取引を進めることに不安を覚える利用者は珍しくはないため、中立的な第三者が間に入るエスクローサービスは不可欠といっても過言ではないでしょう。
また、今後は EC 市場のさらなる活性化や購買行動の多様化が進むにつれ、エスクロー決済の需要はオンライン決済シーンにおいてより一層増えていくことが予想されます。そのため、まだエスクロー決済を導入済みではないけれど、多角的な視野をもって取引の安全性や利用者の信頼性を向上させたい事業者の方は、エスクロー決済の導入を検討してみるのもよいかもしれません。
Stripe Connect でできること
Stripe Connect は、ソフトウェアプラットフォームやマーケットプレイスにおける複数の当事者間の資金移動を管理します。迅速なアカウント登録、埋め込みコンポーネント、グローバル送金などの機能を提供します。
Connect でできること:
- 数週間でローンチ: Stripe 上の機能、または組み込み機能を活用して本番環境にスピーディーに移行できます。ペイメントファシリテーションに必要な初期費用や開発時間を軽減できます。
- 大量の決済取引を管理: Stripe のツールやサービスを利用することで、専任の人材がいなくても、マージンレポート、納税申告書、リスク管理、世界各国の決済手段、アカウント登録の法規制などに対応できます。
- グローバルに成長: 地域固有の決済手段や、売上税、VAT、GST を簡単に計算する機能を活用することで、ユーザーが世界中のより多くの顧客にリーチできるよう支援します。
- 新しい収益源を構築: 各取引ごとに手数料を徴収して決済収益を最適化します。プラットフォーム上で対面決済、即時入金、消費税徴収、融資、経費用カードなどの機能を有効にして、Stripe の機能を収益化できます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。