LLC と C 株式会社の違い
有限責任会社 (LLC) と C 株式会社は、アメリカにおける 2 つの主要な法人形態です。法人タイプごとに特徴があり、特定のビジネスに有利に働くものがあります。
皆さんが専門のアドバイザーに相談しながら十分な情報に基づいて選択できるように、こちらに情報をまとめました。
グローバルなテクノロジー分野の法律事務所である Orrick は、Stripe Atlas の法務のパートナーです。本ガイドは Orrick の専門家が専門知識に基づいて作成したものです。Atlas ユーザーは、Orrick が作成した詳細な Atlas 法務ガイドにアクセスできます。
LLC とは
有限責任会社 (LLC) とは、所有者 (「メンバー」と呼ばれます) 間で交わされる、会社の経営方法やパートナー間での経済的負担と経済的利益の配分方法を定めた契約 (運営契約) に基づいて設立される会社のタイプです。
LLC の構成方法はほぼ無限にありますが、これは良いことでもあり悪いことでもあります。LLC に関わる際には何かと困難が伴います。というのも、その LLC の経営方法がどのように規定されているのか把握するには、運営契約 (さらに、メンバー間で交わされているその他の契約もある可能性があります) を調べる必要があるためです。それに比べると、C 株式会社はもっと標準化されています。所有権を表す株式があり、取締役会が統治していて、日常業務は責任者が担当するといった共通点があります。
LLC に共通する特徴としては次のようなものがあります。
- LLC は、創業者を保護するため有限責任を与えることを目的とした事業体として機能します。所有者の個人資産は保護され、会社の債務責任と義務は創業者から会社自体に移されます。
- LLC ではパススルー課税を選択できます。その場合、通常は会社の事業所得に対して LLC の所有者が個人所得税を支払います。
C 株式会社とは
C 株式会社は、ビジネスの「経営者」とビジネスの「所有者」(経営に関わる場合と関わらない場合がある) との間の抽象化レイヤーとして機能する法人です。所有権は株式で管理し、それぞれの株式では、定義された割合で事業の支配権と経済的利益を受け取る権利を得ることができます。所有者は株主と呼ばれます。
有名な企業の多くは C 株式会社です。たとえば、Google の株式は Google で働かなくても所有できます。C 株式会社の仕組みと規定は、支配権と所有権が分かれている場合があるという前提で作られています。デラウェア州では株式会社に関する法体系が高度に発達しているため、法的紛争が発生した際の予測可能性が非常に高くなっています。
C 株式会社に共通する特徴としては、次のようなものがあります。
- C 株式会社は有限責任による保護を与えることを目的としています。すなわち、一般に株主が会社の債務責任と義務を個人で負うことはありません。
- C 株式会社には自社の利益に対して法人税が課せられます (また、広範な納税申告義務もあります)。株主には、会社が株主に配当した場合 (従業員株主のケースでは、会社が株主に給与を支払った場合) に個別に課税されます。
LLC と C 株式会社の類似点
LLC と C 株式会社はどちらも会社です。アメリカでは、政府や取引先企業などの第三者はどちらのタイプの企業とも進んで取引しますが、そうでない国もあります (LLC に相当する現地の法人が、C 株式会社に相当する現地の法人と比べて商業的に不利な場合があります)。
LLC と C 株式会社はどちらも、会社の行為や会社が負う可能性のある債務に対する所有者と経営者の責任を限定することを目的としています。
LLC と C 株式会社はどちらも契約者になることができ、他の会社やその他のほぼあらゆる資産を所有できます (他の会社から所有されることも可能です)。また、どちらも銀行サービスを受けられ、ほとんどの場合は事業を運営できます。
資産と知的財産
サイドプロジェクト、小規模なチーム、ブートストラップビジネスや、成長した段階でどのような企業にしたいか構想を立てていないビジネスの創業者の多くは LLC を選んでいます。(LLC はほぼあらゆる規模のビジネスに対応可能です。たとえば、Basecamp は LLC です。Facebook は LLC として創立され、のちに C 株式会社に移行しました)。
サイドプロジェクトに LLC が適しているのは、資金と知的財産 (IP) を LLC のメンバーと LLC 自体との間で自由に移動させることができるからです。C 株式会社でそのような取引を行うと税負担が発生しますが、LLC では普通は発生せず、形式張った手続きは最小限で済みます。
C 株式会社でも概念上は可能ですが、より多くの記録管理や (場合によっては) 厄介な税務上の考慮事項が生じます。知的財産に関する場合は特にそうです。さらに、C 株式会社の主な活動の大半では、会社の正式な決議や株主投票といった形式張った手続きも必要です。LLC の運営契約の場合、所有者や経営者が容易に活動できるようになっています。
課税
アメリカの税制では、LLC はパススルー企業と見なされます。すなわち、LLC は自身で納税申告するのではなく、所有者個人の所得税申告で所得が申告されます。C 株式会社は自身で納税申告します 。(少し紛らわしいのですが、C 株式会社もパススルーを選択できる場合があり、LLC も株式会社のように課税を受けることを選択できますが、通常の取り扱いとは異なります)。
LLC を経由した資金に対しては LLC の所有者レベルで課税され、株式会社を経由した資金に対しては会社レベルに加えて、所有者に (給与または利益の配分として) 資金が渡る場合は所有者レベルでも課税されます。
これらの法人では税務上の取り扱いが異なるため、多くの会社が設立当初にそうであるように、会社で損失が発生した場合は特に、重要な影響が生じることがあります。C 株式会社である年に損失が発生した場合、通常はその損失が今後の課税年度に繰り越され、将来の利益と相殺することが可能です。LLC で発生した損失は、通常はその課税年度における所有者の所得 (給与所得など) を相殺するために用いることができます。
ある会社が事業を開始した最初の年に 1 万ドルを支出し、売上がなかったケースを考えてみましょう。C 株式会社が税制優遇を受けるには、その 1 万ドルの損失を将来に繰り越す必要があるでしょう。LLC の場合、所有者の総所得から 1 万ドルを控除できます。そのため、所有者の所得税額が数千ドル少なくなる可能性があります。アメリカのテクノロジー企業で働いている人はかなりの還付を受けることができ、その資金は本人のものなので、ビジネスの成長やその他の目的に転用できます。
外国の所有者
アメリカでもデラウェア州でも、現時点では LLC と C 株式会社の所有者に対して市民権や居住の要件は課されていません。とはいえ、非居住者や市民権を持たない所有者が LLC を所有する場合は、税務上非常に複雑になる可能性があります。非居住のアメリカ市民は、場合によっては LLC が得た所得に対してアメリカで納税申告をする義務を負います。また、居住地の管轄区域でその所得にどのように課税されるのか考慮する必要もあります。
たとえば、所有者が 2 人いる LLC を考えてみましょう。1 人はアメリカに住む所有者で、もう 1 人はアメリカ市民でなく日本に住む所有者だとします。日本に住む所有者には、LLC から受け取った所得に対してアメリカから課税されるでしょう。さらに、その所有者には日本でも同じ所得に対して課税されることがあります。そのため、納税申告がかなり複雑になります。
投資
プロの投資家は、圧倒的に LLC よりも C 株式会社への投資を好みます。Stripe Atlas ユーザー向けの Orrick 法務ガイドには次のように記載されています。
LLC は所得と損失がパススルーされるという特徴があるため、[多くの]タイプの投資家は LLC に投資することに関心がありません (場合によっては法律で禁じられています)。
また、LLC の形態は非常に柔軟に選べるため、LLC に投資しようとする投資家は、購入しようとしているものが想定どおりの購入対象であることを確認するために、相当の法務デューデリジェンスを実施する必要があります。多くの投資家は、投資を行う条件として高額な費用がかかる法務業務を行いたいとは思いません。標準化された条件の下で標準化された会社に投資することを望んでいます。その要望を満たすうえで、C 株式会社の方がはるかに適しています。
LLC として投資のオファーを受け取った場合、その会社は投資を受ける前に、多くの投資家 (Y Combinator などを含む) から投資を受ける条件として、会社をデラウェア州の C 株式会社に移行するよう求められる可能性があります。
従業員持ち株制度
LLC と C 株式会社はどちらも従業員を雇用できます。従業員に持ち株を与えて LLC に対する支配権は渡さないということは原理上は可能ですが、簡単ではありません。C 株式会社の場合、従業員に株式や株式オプションを発行する仕組みが十分に知られており、テクノロジー業界全体でこのような所有権の形態による税務上の影響や、文化面とインフラ面のサポートも十分に周知されています。
従業員と顧問は、LLC のメンバーになるよりも株式を受け取る方がはるかに快適である可能性が高く、LLC が存続する間は (たとえば、LLC を退職した場合でも)、自身の税務上の状況が複雑になる可能性があります。
ベスティング
ベスティングとは、会社の創業者または従業員が徐々に所有権を獲得する仕組みです。
Stripe Atlas を利用して設立する LLC には、株式のベスティングスケジュールは含まれていません。株式会社には会社のパートナーと所有者を明確に区別する方法がありますが、LLC ではそれらの概念が本質的に混在しています。LLC のメンバーから外れる所有者は、場合によって、メンバーからはずれるパートナーと残るパートナーとの間で離脱条件について交渉する必要があります (ただし、Stripe Atlas を利用して設立した LLC には、このプロセスに対処するための条件がいくつかあります)。会社によっては、離脱するパートナーの持分を残りの当事者が買い取ることで、すっきりとした離脱を望む場合もあります。また、離脱するパートナーに利益の一部を支払い続けたいと考える会社もあるでしょう。このような意思決定は複雑で、会社の状況や所有者の希望によって変わります。
また、ベスティングの基準も、LLC ではテクノロジー業界の C 株式会社ほど確立されていません。LLC は親族間で設立されることが多く (そこでは人間関係の考慮が契約上の取り決めに優先する場合がある)、離脱がパートナーシップの解消につながらないケースはまれです。かなり大きな規模で経営することが想定される C 株式会社では、支配権のない所有権が価値を持つことがよくありますが、LLC ではそれほどではありません。
## LLC から C 株式会社への移行
ほとんどの場合、LLC は C 株式会社に移行できます。(原理上、C 株式会社を LLC に移行することも可能ですが、行われることはめったにありません)。
LLC はメンバー間での契約上の協定によって管理されているため、LLC の移行プロセスのリスクを軽減するには広範囲におよぶ法的な確認が必要になるのが一般的で、移行の費用と時間が増すことになります。
Stripe Atlas を利用して設立した LLC には、移行を想定して作成された運営契約があります。移行を始めるためのプロセスも明確に定義されています。所有権は、将来の C 株式会社の株式発行に対応付けられる単位で追跡されます。スタートアップに関する専門知識を豊富に持つ Orrick が、法務ガイドでこの移行プロセスの概要を紹介し、注釈付きのテンプレートを用意していますので、Stripe Atlas ユーザーは移行の際にそれをカスタマイズしてご利用いただけます。
LLC を設立する地域
LLC と C 株式会社は、創業者の居住地や会社が実際に事業を行う地域に関係なく、アメリカのどの州でも設立できます。各州は、手数料の獲得や地元の経済発展を求めて、LLC と C 株式会社を設立する魅力的な場所となるような制度を考案する取り組みを進めています。
現在のところ、Stripe Atlas を利用して設立した LLC はすべてデラウェア州に設立されており、所有者が居住する州や事業を行う州で「州外」LLC としての登録が必要になる場合があります。一般にこのプロセスは簡単で、年間にかかる費用はわずかです。アメリカ国外に居住する創業者に適用される規制は、実にさまざまです。地域の公認会計士や弁護士、または各国政府にお問い合わせください。
Orrick の法務ガイドでは、デラウェア州に LLC を設立するメリットを紹介しています。
デラウェア州では LLC を簡単に設立できるメリットがあり、非常に柔軟です (経営とガバナンスの協定に対する制限がほとんどありません)。また、将来の取引先にもその仕組みがよく知られています。さらに、デラウェア州の LLC をデラウェア州の株式会社に移行する場合、移行プロセスが簡単で一般的なので、プロセスのほとんどの要素に対応した標準フォームが存在します。
Stripe Atlas を利用して設立した LLC の概要
Stripe Atlas を利用して設立した LLC は多くの LLC と共通する特徴を持っていますが、テクノロジー企業の創業者のニーズに合わせてカスタマイズされたものもあります。
運営契約は法的契約なので、締結する前に全体をよく読む必要がありますが、条件について以下で簡単にご説明します。
- LLC はデラウェア州の法律に基づいて設立されます。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC は経営者が経営し、日常的な意思決定および経営の責任と所有権 (メンバーになること) を分離できます。会社には所有者でない経営者や、経営責任を負わない所有者を迎えることができます。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC の運営契約には知的財産権譲渡が盛り込まれており、設立前に生み出されてメンバーが保有している知的財産を、LLC の設立時に LLC に譲渡するようになっています。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC の所有権は、1,000 万ユニットで管理されます。これらのユニットは株式と同様に機能し、会社の単純な所有権を単一クラスの所有者のみで表しています。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC には新しい所有者を追加できます (既存の所有者全員の同意を得る必要があります)。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC では所有者を除外できます (既存の所有者全員の同意を得る必要があります)。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC には、デラウェア州の C 株式会社への移行プロセスを簡略化するための言語が含まれています。
- Stripe Atlas を利用して設立した LLC には、所有権のベスティングは含まれていません。その理由については、法務ガイドで後ほど解説します。
Stripe Atlas を利用して LLC を設立するすべてのユーザーに Orrick 法務ガイドが届きます。このガイドには、LLC、C 株式会社、運営契約、その他 Stripe Atlas で使用するテンプレートに関する詳細な情報が記載されています。
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C 株式会社と LLC のどちらを設立する場合でも、Stripe Atlas がスタートアップの設立を支援します。数回のクリックで会社を設立でき、ビジネスの運営に必要なものがすべて用意されています。
このガイドは、いかなる状況においても、法律上または税務上の助言、勧告、調停、カウンセリングを意図したものではなく、またそれらに該当するものでもありません。このガイドおよびその利用により、Stripe、Orrick、または PwC との間で弁護士と依頼人の関係が構築されるわけではありません。このガイドは単に著者の考えを表すものであり、Orrick により承認されたわけでも、Orrick の考えを反映したものでもありません。Orrick は、本ガイドの情報の正確性、完全性、適切性、および現行性について保証しません。具体的な問題について助言が必要な場合は、当該管轄地域の営業許可を有する弁護士または会計士に助言を求めてください。